【 佳   作 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
はじめてを共に
東京都  佐 瀬 寛 展  37歳

「あなたにとって働くとはどういうことですか?」

就職活動をしていた頃、私は何度か面接官にこの質問を投げかけられた。就活生の私が出した答えは、

「一個人である自分が会社を通じて社会と接点を持つこと。それが就職」。

大学院生の私が出せた答えはここまでだった。


私は経営コンサルタントとして就職し、これまでいくつかの企業様の新製品・サービスの開発をお手伝いさせていただいた。

その経験を通じて、大学院時代に出した答えがもう少し具体的にわかった気がする。

それは、自分が新しいものを社会にもたらすこと、これが社会と自分をつなぐ接点であり、働くということ。いうならば世の中に「はじめて」を創り出そうと試行錯誤することが私にとっての「働く」であった。


世の中にはあらゆる製品・サービスに溢れている。それらは偶然そこにあるわけではなく、働く人たちが本気で検討した結晶だ。


・薄くて軽い処理の早いパソコン(昔のパソコンは重く、起動に時間がかかった)

・細い胃カメラ(昔の胃カメラは太く、飲み込むのが辛かった)

・次の日には商品が届くECサイト(昔はモノを買うなら店舗に行くしかなかった)


これらは全て誰かが創る前はこの世になかったはじめての製品、サービスだ。


私には忘れられないプロジェクトがある。私の所属するコンサルティング会社にある依頼がきた。「社運をかけて新商品を作りたい。サポートをお願いできないか」。私はプロジェクトの責任者を任された。

プロジェクトは顧客企業の社長直下に置かれたため、プロジェクトメンバーは、失敗は許されないというプレッシャーのもと検討を進めることになった。


プロジェクト内で対応しなければならないことは多岐にわたった。ターゲットとなる顧客は? 競合企業の動向は?などリサーチ項目だけでも膨大な数になった。

社内外への調整では猛烈な反対を受け、無謀だと鼻で笑われたこともあった。

メンバー全員が毎日深夜まで脳が沸騰するほど考え、ときにぶつかりあい、心が折れ、また初めから検討し直す。

いつの間にか「どうしたらできるかな?」から、できない理由探しで頭の中が埋め尽くされていた時もあった。


そんな半年間にわたる検討を経て、最終プレゼンを聞いた社長の「よし。これでいこう」の一言を聞けたとき。

顧客企業の検討メンバーが目に涙を浮かべながら、深々と頭を下げ「辛い検討に付き合ってくれて有難うございました」と声をかけて下さったとき。

そして、検討した新商品が店頭に並び、それをお客さんが嬉しそうに手に取り買っていく姿を見たときは、自然と涙がこぼれた。


これから働く若者へ。10年ちょっとだが君たちより先に働いた現場の人間の声として少しだけ聞いてほしい。


携帯電話など、君たちが利用しているものは最初からそこあったわけではない。我々の先人たちがなんとか形にしようともがきながら創り上げたものだ。

私は自分自身でこの苦労を味わった時、世界のあらゆるものに感謝出来るようになった。「そこに存在してくれて有難う」と。


私は就職する前、働くってつらいだけなんじゃないか、と思っていた。

もし私と同じような不安を抱えている若者がいたら、少しだけ勇気をもって「働く」という世界に飛び込んでほしい。


君たちのみずみずしい感性は社会に0から1を生み出す原動力になる。ビッグデータの解析やAIでは生み出せない「WOW!」を創り出せる。大の大人たちが新しい何かを創ろうと企てる時間は密度が濃く、共に乗り越えたメンバーとは無二の戦友となれる。そしてそれが世に出たときは、体の芯から震えるような達成感に包まれる。


あなたの勇気と行動と感性を世界は待っているし、「はじめて」を生み出した経験はあなたの生きた証になる。そんなことを体験してほしいと切に願う。

新しい何かを生み出す現場にいた人間からの提言です。「働こう。そしていつか一緒に世の中を僕らの『はじめて』で驚かそうぜ」。

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