【 佳   作 】

【テーマ:仕事を通じて、かなえたい夢】
心の国境をなくそう!
佐賀県  黒 岩 春 地  63歳

日曜日の朝、私は、机の前のチョロの写真を眺めながら、セントルシアを思い出していました。チョロと名づけた小鳥は、小さなロビン(コマドリの一種)で、単身赴任の私を毎朝起こしに来てくれました。セントルシアはカリブ海に浮かぶ小さな島。私はそこで視覚障碍者のためのお手伝いをしていました。

セントルシアは人口18万人の黒人の国。そこに2000人も全盲の方が住んでいます。日本のように障碍者のための法律も制度もないこの国では、視覚障碍者の方の多くは、家の中に閉じこもっています。私は彼らが自分たちの力で生きていける手段として、日本の指圧技術の導入を考えました。貧しい国ですが、今セントルシアでは、目の不自由な人たちのための「指圧研修センター」を立ち上げようとしています。私は昨年10月に帰国しましたが、私の後任、27歳の若者が、今、このプロジェクトを引き継いで頑張ってくれています。私も日本にいて、目の不自由な子供たちといっしょに作ったオリジナルノートを売りながら、僅かずつですが、資金援助に取り組んでいます。セントルシアで描いた夢。じっと私の手を握りながら見えない眼で微笑み続けてくれた少女の顔、「夢が実現するまで一緒に頑張ろう!」とメールをくれた全盲の理事長の顔が思い浮かびます。今、「かなえたい夢は?」と聞かれれば、いの一番に思うのがこのこと―「セントルシアに指圧研修センターをつくること」―です。

でも少し欲張りのようですが、実は今、もう一つ夢ができました。昨年10月に帰国した私は現在、国際交流協会に勤めています。そこで多くの外国の人たちと交流しています。ワクワクするような楽しい話も、重くのしかかる暗い話もあります。日本人のほとんどいないセントルシアで、外国人だった私は、たくさんの人に助けられました。だから今度は私がいろんな思いを抱えてやってきた外国人を応援する番です。「外国の人たちが、皆、仲間として受け入れられ、一緒に地域づくりを担っていく、そんな町にしていくこと」これが新しく生まれた、私のもう一つの夢です。

違法就労で逃げてきたアジアの若い女性たちの屈託のない顔をみると、何とかしてあげたいと思います。外国人たちがチームを作って自ら災害時に地域を守る側になって活動しているニュースを聞くと、頼もしく感じます。セントルシアであろうと日本であろうと、いや世界中どこであろうと、国籍や民族や文化や宗教に関係なく、皆が人として生き生きと生きていける、普通に生きていける、そんな社会にしていけたらなあとつくづく思います。

「多文化共生」は難しいことではありません。皆仲間だということ、地域を支えている仲間、一緒に学んでいる仲間、一緒に生活している仲間だ、ということです。国籍や民族が違おうと、人々が当たり前に地域の仲間として暮らしてゆける世界、そんな地域をつくってゆくのが今の私の仕事です。そしてその実現のための原動力になるのが、若い人たちの偏見のない心だと、このごろつくづく思っています。

若い皆さん、是非力を貸してください。私たちは今、「心の国境をなくそう」という標語を作って活動しています。心の国境をなくし、誰もが安心して生き生きと夢を語れる社会をつくっていきましょう。

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