【 奨 励 賞 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
結果を出すトレーニングをしよう。
東京都  中 村 イオラ  46歳

「金融営業って奥が深いと言うか、甘くないですね。まったく売れないで困っています。」


昨年新卒採用で私の職場にやってきた若者の弁である。長身でスレンダーなビジュアルは、多くのお客様を虜にしても不思議ではない魅力に包まれている。ややもすれば、もう少し経験を積めば、大化けするポテンシャルを秘めているな、というのが上司である私の評価である。


しかし責任感の強い彼は、深く悩み、いよいよ進退を口にするようになってきた。

「正直やっていく自信がありません。会社にも迷惑が掛かりますし。退職も考えてしまいます。」

まだ入行して1年。長いことこの仕事に携わってきた私に言わせれば、そう簡単に売れてしまっては困るといったところだ。もがき苦しみ、お客様の信頼を勝ち得る術を若いうちに学び取ってもらう。ーそれこそが今の彼の仕事と位置付けている。そう、若い彼の今の業務はまだオープン戦の位置付け。色々試行錯誤しながら成果を追求できる段階に、結果などは求めていない。そのため、彼には日々伸び伸び楽しくチャレンジをし、すくすくと育って欲しかったと言うのが私の希望である。


しかしどうだろうか。

もはやお客様との交流にすらすっかり自信を失い、後ろ向きな姿勢が目に付くようになったのはここ1ヶ月ぐらいのこと。

「正直言いますと、営業はもういいかなと思ってます。自分、向いてないなと。」

彼は額を落とし、私に目を合わせることなく弱々しく呟いた。お客様に冷たくあしらわれることも多く、必ずしもウェルカムな歓迎を受けるわけでもない営業職である。辛いことが多いのも長い経験を有する私からすれば十分に理解しているつもりである。

しかしここ数年、何人同じようなことを言って若者が去っていっただろうか。

この若者も何も身に付けることなく、今までの若者と同様に去っていってしまうのか。私は、この若者のように追い詰められた者に必ず以下のような話をする。

「まずは今与えられたところで結果を出す練習をしよう。ある程度結果を出せるようになったら、社内だけにとどまらず、世の中でも評価されるようになるよ。そうなれば自ずと道が開けるしどこ行っても通用するさ。」

結果を出せば、会社を去る時に必ず惜しまれるようになるし、世の中の人々が力を評価し、放っておかなくなるというものだ。それは人材としての評価が上がったことを意味するので喜ばしいことである。


一部で、「辛ければ逃げろ。」と言うアドバイスをする立場の人々がいるのも知っている。しかしそれは、実力を付けたからこそできることであり、あまり参考にならない。このまま逃げてしまったら、卒論に追われている学生と大差のない、何のスキルも実績も有しない若者のまま、世間に放り出されてしまうことになりかねない。

どの仕事にも言えるが、結果を出さなくては評価がされず、報酬も得られない厳しい時代に突入してきているのだ。


彼はいずれ大成するだろう。彼の誠実な仕事ぶりを見ていればそう感じさせられるし、期待を持たざるを得ない。だからこそ彼には言いたいのだ。「急がば回れ。」と。


若手社員に結果を出す重要性を説いて回る私ではあるが、それでも退職していく若手社員が多いことを考えると、私自身が結果を出せていないのかもしれない。うん、きっとそうだ。そう、偉そうなことを言える立場にないことを察して恥ずかしくなった。しかしそんな私が社会人としてなんとか踏みとどまっているのだから、若手社員も自信を持って堂々と働いて頂きたいものである。

若手社員にとっては悩むことも多いだろう。しかし、まだ見えぬ将来の計り知れない大きな夢を掴むためにも、今の苦労や苦痛をトレーニングだと思って突き進んで欲しい。


若手社員に対し偉そうなことばかり放言して止まない私ではあるが、いまこのエッセイを書きながら、苦笑し頭を掻いているのはここだけの話にして頂きたい。

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