【 奨 励 賞 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
お試し採用
大阪府  宮 本 みづえ  69歳

69歳の誕生日の午後3時、近くのスーパーでバイト募集のため、私の面接が始まった。

30代前半に見える店長は履歴書を開き、

「えっ、今日が誕生日ですか? おめでとうございます!」

と、手をパチパチ叩いてくれた。

「ありがとうございます。でも私、パチパチより採用して頂く方が嬉しいです」

こんな会話から始まった面接で採用が決まった。

同い年の夫は60歳で定年退職をして、同じ職場で67歳まで働いた。

私は子供たちが小学生の時から職場を何度か変えながら、64歳までパートで事務員をしていた。

2人の退職後はどうにか人並みの生活をしていたが、ここ2、3年のうちに我が家にとっては大金の出費が続いた。

このままでは年金だけの生活が不安だった。

元々体の弱い夫は、働く体力も気力もない。

そこで私が就活をすることにした。

タウンワーク、新聞の折り込みの求人広告など、片っ端から電話をして全て断わられた。

当然である。69歳の婆さんを採用する訳がない。

それでもめげずに続けた。もし電話口で年齢を聞かれなかったら、面接までいけるかも、と期待をしながら。

ある日曜日。新聞の折り込み広告で、近くのスーパーが夕方のバイトを募集していた。

どうか年を聞かないで、と念じながら月曜日の朝、スーパーに電話をした。

応対してくれた店長は年齢も聞かずに、次の日の3時に面接と決めてくれた。

面接に向う途中、なぜか笑けてきた。

私のこと女子大生、もっと若い女子高生と思ったのかな。婆さんの私を見たら驚くだろうな……。

採用など無理とわかっていたので、面接に行く時のドキドキ感はなかった。

奇跡のような採用をしてくれた店長に、心から感謝をしている。

仕事は週に3、4日で、5時から9時の閉店までと決まった。

パートの女性たちは4、5時に帰り、私の仕事仲間のバイトは高校生や大学生の男女ばかり。

シフトがあり、メンバーは変わるが、毎日3、4人と顔を合わせる。

仕事始めの日に、こんなお願いをした。

「毎日が敬老の日だと思ってね」

孫より若い仲間たちが大笑いした。

以前は商品のバーコードをピッピッとするだけ、とレジを小馬鹿にしていた私。

ところが脳が萎縮をする私のような年では、むずかしかった。

種類の多いクレジットカードでの支払いや、スーパーのポイントカードがややこしい。

もう無理、と辞めたくなったが、私には次がない。

解雇通告されるまでは頑張ろう、と。

9ヶ月が経ち、まだ解雇はされていない。

夫が待っているので、仕事が終わったら少しでも早く帰りたい私。

そんな私を仲間たちがからかう。

スマホを取り出して計算を始めた青年。

「今日のバイト4人の年齢を足したら、70でした。宮本さん一人と一緒です」

皆が爆笑し、私は逃げる彼を追い回した。

「コラーッ! 私はまだ69やんか !!」

すると店長が私を褒めてくれた。

「4時間ぶっ続けでレジをやった後に、まだ走り回る元気がある。凄い凄い !!」

そう。年齢で物事を決めないでほしい。

3日でもいいから、私のような年配者には、まずお試し採用をしてほしい。

役立たずだったら、すぐ断っていい。

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