【 入 選 】
働くとはいったい何なのだろうか。ただ生活に必要なお金を稼ぐための手段であるだけなのではない
か。以前の私はそう考えていた。
実際、ニュースでもブラック企業などといった仕事についてのネガティブなイメージの報道を目にする機会もあるし、同級生からも「バイト行きたくない。」といった愚痴を聞くことも多く、働くことに対してポジティブなイメージはなかった。そのため、アルバイトはしてこなかった。
しかし、転機が訪れた。親からの仕送りだけではやりくりができなくなり、アルバイトを始めなければならなくなったのだ。私が選んだのは自転車での配達のアルバイトだった。選んだ理由も、ゼミの先輩がそのアルバイトをしていたというだけのことで、それほどモチベーションがあるわけではなかった。
アルバイトを始めてすぐに働くことの難しさを痛感した。道に迷ったり、配達途中に商品を落としてしまったりとミスも多く、お客さんからクレームを受けたこともあった。不安やストレスがたまる一方で、もう辞めたいとも考えていた。
そんな時だった。この言葉を聞いたのは。
「お疲れ様!ありがとう!」
配達先のお客さんが言ってくれたのだ。それも、飛び切りの笑顔で。
私はクレームを受けるのではないかと不安になっていたため、この反応は予想していなかった。だが、お礼を言われて笑みがこぼれ、温かい気持ちになったのだった。この日を境に私の働くことに対してのイメージは一変した。
「働くことを通じて、人を笑顔にできるのだ」と。
それからというもの、苦しいことばかりだったアルバイトが非常にやりがいのあるものとなった。業務内容にも慣れ、効率よく配達できるようになり、仕事ぶりを評価されることも増えてきた。とはいえ、たまにイレギュラーな事態に直面することもある。だが、もう怖くはない。お客さんの喜ぶ姿を思えば、自然と困難を乗り越える勇気が湧いてくる。
これまで私は、就職についてあまり深く考えてはいなかった。しかし、この実際に働いて得た経験を活かせるよう、これからも努力したいと思う。働くことを通じて、一人でも多くの人を笑顔にしたいから。