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【テーマ:仕事探しを通じて気づいたこと】
井の中の蛙 ─私のしくじり経験─
千葉県  森 田 洋 介  27歳

初めての就活は失敗に終わった。その ‘しくじり経験’ があるからこそ、今日の自己が形成されたのだと信じて疑わない。


大学時代の私は、絵に描いたような自惚れ屋だった。就活を目前に控えたころ、学科内のビジネスコンテスト演習に熱中していた。チームごとに会社を創造し、新規性や実現性などの評価項目で順位づけされる。約4か月の期間、起業家になったつもりで四六時中考えていた。顧客満足度を高める方法は……、自社の競合優位性を構築する方法は……。存在しない会社にも関わらず、同業他社の知人に意見を求めたこともある。最終発表の前日には徹夜をし、ボロ雑巾のようになりながらも成果物の品質向上に努めた。その姿は、研究室の仲間から「常軌を逸している」と評されたほど。死に物狂いの努力は身を結び、全チーム中1位の成績。それに加え、同時期には学内全体の懸賞論文コンテストにて最優秀賞を獲得した。

学内で二つの実績を手にし、有頂天になっていたのだろう。自分の能力を過大評価した私は、ひとりで会社を変えられると勘違いをし、ベンチャー企業中心の就活をスタート。面接では「自分の名前だけで仕事ができるようになりたい」「初年度から新規事業を立ち上げたい」など大層なことを口にしていたが、具体的なプランなど何もなかった。資格もなければスキルもない。当然、こんな自己肯定感が高く謙虚さもない人間を欲しがる企業などない。4年生に進級したころ、一度自分を見つめ直すために就活を停止させた。

私の ‘しくじり経験’ は、学内における実績のみで優越感に浸り、能力があると勘違いをしたことだ。学内には同じような学力の学生が集まっている。自分の真のレベルを知るためには、外の世界である他大生や社会人と交流し、視野を広げることが重要だと考えるようになった。こうして、当時新たに熱中していた研究活動に精を出すこと、ひいては継続的な学会参加を目指して大学院進学を決意したのである。


大学院時代は9割の時間を研究に費やした結果、2年間で7回の学会発表を経験し、論文1本を学術誌に掲載させることができた。

学会では積極的に他大生との交流を図った。企業の協力のもとで研究を行う学生や、流暢な英語で質疑応答に答える学生、全国規模のビジネスコンテストに挑戦する学生、綿密な事業プランのある学生。専門性と情熱を兼ね備えた姿に刺激を受け、強く思った。‘井の中の蛙大海を知らず’ とは私のことだ……と。社会人との交流においては、新人に期待することや企業の選び方などの助言を賜ることで、就活対策にも繋がった。

学会を通じて外の世界との交流を続けた私は、自分の真のレベルを知ることにより謙虚さを取り戻した。そして、晴れて5社の内々定獲得に至ったのである。


後日、お世話になった就職課の職員のもとを訪ねたときのこと。

「この2年間で見違えたね。言動も含めて、院生らしい姿になって立派だと思うよ」

賞賛のあと、衝撃的な一言が飛び出した。

「実は君が大学3〜4年生のとき、話を聞いていて、‘これは社会に出してはいけない人だ’ と思ったんだよ。でもね、今なら大丈夫」

当時の私がどんな会話をしたのか、はっきりと覚えていない。きっと目の前のことだけに捉われすぎて、自分を見失っていたのだろう。社会を甘く見ていた結果と慢心が言葉に表れていたのだろう。今では、一度目の就活の失敗が成長するために必要な遠回りだったと思えるのだ。


私は ‘しくじり経験’ のおかげで、外の世界との交流をすることの重要さに気付いた。学内という小さな世界で優越感に浸っていると、そこで成長は止まってしまう。

そして、社会人になった今もこれらの ‘しくじり経験’ は私の日常に良い影響を与えている。なぜなら、こうして全国規模のエッセイコンテストに挑戦し、外の世界との交流をし続けているからだ。

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