【 佳   作 】

【テーマ:仕事探しを通じて気づいたこと】
人間関係離職を防ぐ
岡山県  金 熊  31歳

決して得意げに話すことではないが、私はこれまで30回以上転職したことがある。もともと期限の決まった短期バイトだったり、更新のある派遣の業務を更新しなかったためだったりもするが、ほとんどが自己都合の退職である。

仕事をやめる理由はいつも、人間関係だった。同僚と合わなかったり上司とうまくいかなかったり、いやがらせをされたりして短期間でやめてしまう。仕事自体はうまくいっていたり、もっと続けたいと思っていても、ヒトが合わなくて出勤できなくなってしまうのだ。

自分だけかな、と長いこと悩んで過ごした。新しい職を探すのが怖くなって求職活動を休んでいた時期もある。しかし、最近、インターネットで、同じような理由でひきこもりやニートになってしまった人がたくさんいることを知った。もともと勤労意欲のない人はほとんどおらず、たいていの人がパワハラやいじめにあって離職している。そして、そういったマイナスの経験を積み重ねるうち、転職回数の多い履歴書がネックになったり、うつになったりして無職になってしまうのである。

日本の職場は、人と人の距離が近すぎるのではないかと思う。すべての人が正社員で終身雇用が当たり前だった時代の名残かもしれないが、飲み会への参加や冠婚葬祭時のための集金制度など、仕事を離れて個人の領域に踏み込んでくる慣習が残っているところが多い。

もともと人と接するのが苦手な人や、個人のプライバシーを探られたくない人は職場でどうしても孤立しがちになる。時給の低い非正規の仕事で、業務をこなすだけでもストレスがたまるのに、合わない人とのつきあいが加わると離職率はどうしても上がってしまうだろう。アルバイトの求人で「アットホームな職場です」「毎月全員参加の楽しいイベントがあります」などと書かれているところは多いが、最近の求職者はそう言うところは避けがちだという。合わない人と業務外でまでつきあいたくないからだろう。

私もそうだ。生き方や考え方の違う人とはできるだけ深くつきあいたくない。多様性が認識されてきた現代だから、根掘り葉掘りプライバシーを探ったり考えを押し付ける人は減ってきたものの、未だに存在する。そういった人との関わりはエネルギーを消耗するだけだ。同じように思う人は少なくないだろう。AIの発達や機械化が見込まれるこれからの社会で、人同士の摩擦が起こりにくい職場が増えてほしいと思う。働きやすさとは、関係の希薄さでもあるかもしれない。人間関係の希薄化は問題視されてきたが、もうそろそろ、人類はムラ社会の窮屈さに疲れてきたのではないだろうか。

知られたくないことを探られず、悪口や陰口、パワハラの起こりにくい職場はどうしたら作れるだろう。私は発達障害も指摘されているが、職場ではオープンにしていない。今のところ、周囲に理解を求めるくらいしか対策がないと知っているからだ。LGBTや産休・育休社員のケースなどもそうだが、事情を抱える人への支援が「周囲に協力を求める」ことに収束されているうちは、現場に軋轢を生むだけで何もうまくいかないだろう。違う状況でありながらそれぞれにかけがえのない人生を送っている人たちが集まるのが職場である。一見何の問題も抱えていないように見える人だって、支援する側ばかりやらされたのでは不満がたまる。人間関係は、職場の雰囲気を左右し、業績にも影響する。風通しのよさや濃密な関係を作ろうとするより、いっそ、距離のあるドライな社風や、無口な人でもうまくやれる環境をめざしてはどうか。新しい時代の人間関係には、踏み込みすぎない優しさも必要な気がする。

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