【 佳   作 】

【テーマ:仕事探しを通じて気づいたこと】
けじめある大人に
福井県  廣 瀬 支 保  34歳

5月のある日、たまたま入っていたテレビから、ある言葉が耳にとまり、画面に目が行った。それは「退職代行サービス」についての番組だった。初めて聞くこの言葉に一体それは何だろうと気になり番組を見続けた。それはなんと、当事者の代わりに代理人が退職願を出しに行くというサービスだった。私は今の世の中にこのような代行サービスがあること自体に驚いたが、更に驚かされたことが、そのサービスを使用している大半が、4月に入社した若者ばかりだったからだ。番組内で、代行サービスを頼み会社を辞めた何名かの若者の声が聞こえた。一人目は、「4月に入社したんですけれど、仕事って大変だし、辛いんで辞めようと思ったんですが、自分で退職願出すと上司に怒られたくなかったんで…。」と。二人目は、「入った会社が自分の理想と違っていたというか。自分のやりたいことさせてもらえないんで。」最後の一人の言葉には自分の中で激震が襲った。「何度も代行サービス使ってます。これで6回目ですかね。自分で言いづらいのをこうして代わりにしてくれて、辞めたい時にすぐ使えて助かっています。」と。

私は、この3人の声を聞いて一ヵ月働いて仕事が辛いだの、自分の理想と違っただのとそんな短期間で分かるかと頭に来た。そして自分で直接、退職願を出しに行けないというこの甘えに対しても許せなかった。

私は障害があり就労b型を利用して一年が経つ。そろそろ社会に出られる力がついたと評価され、ハローワークに登録へ行ったり、インターネットで色んな求人を探している。自分は、左下肢麻痺の障害がある為、なるべく足に負担のかからない座り仕事の事務職を希望した。しかし、障害者枠での事務職というものは凄く少なく一般就労まで広げて探しているが、それでも難しい。そんな求人探しに明け暮れていた時の最中に観たこの番組。健常者で自分の入りたかった会社に入社出来たという、こちらからしたら羨ましく感じることしか出来ない話しだが、彼らは、苦しさや辛さを経験せずに今まで生きてきた哀れな人間にしか見えなかった。この人達に私から伝えられることがあったとしたら、自分で入社したいと思い、現実に会社に入れた喜びを持ち続け、会社に採用させてもらった感謝の気持ちを持ち続けて、最初の雑用から、ひたむきに上を目指し辞めずに飛躍してほしかった。それでも自分の求めているものと会社と違いを感じた時は自分の口で理由を述べ、自分の手で退職願を出してほしかった。健常者には、選べる職種の幅、取得出来る資格の幅、勤務先が選べる幅が広く仕事も見つけやすい。一方、障害者は健常者の人より選べる全ての幅が狭い。だから余計に、こうして転々と職を変える人間を不快に感じる。

過去に姉とこのような話しをした。姉が、「自分のやりたいことを職にしている人は、ほんの一握り。殆どの人は、やりたい事を職には出来ていない。でも、生きる為にはお金が必要。だから自分のやりたい仕事に就けずとも、わがままを言わず働き続けるんだよ。でも、そんな仕事でも長年働いていると、その仕事の中で自分のアイデアが浮かんだり、自分の考えが思いついたり。それを上司に提案してみて、それが現実に形にして取り入れてもらえた時は、夢が叶ったと思うくらい幸せになるんだよ。」と笑顔で話している姉の顔は、とてもイキイキしていた。

私も就職活動を頑張り自分を採用してくれる会社が現れたら、一生懸命その会社に感謝の念を込めて、どんな雑用でもどんな大変な仕事でも頑張り続け、障害者であっても他の健常者の人と線引きされないくらいの働き者になれるように努力したい。

そして身体に限界が来て仕事へ行くことが困難な日が来ても、私はきちんと自分の口で感謝の意を述べ、自分の手で退職願を出したい。何事もけじめのある人間でありたい。

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