【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事探しを通じて気づいたこと】
文学部をなくさないで
熊本県  i  19歳

「文学部を出て将来どうするの。どうしてもっと有意義な資格が取れる学部にはいらないの」

この言葉は受験前も、入学した今でもなお、私が親族や周りの大人によく問いかけられる言葉である。最近、テレビや新聞で「文学部廃止」という言葉もよく見かけるくらいだ。中でも私は、総合人間と名の付く学科に在籍しているため、ぱっと見何の勉強をしているのか疑問を持たれても無理はないと思う。私はそこで倫理学をはじめ、哲学、心理学、社会学、文化人類学、民俗学、地理学 ... ほかにもあるが、実に多岐にわたる学問分野を日々学んでいる。しかし、入学以前私は、臨床心理士という夢をかなえるべく、心理学部が設けられている、ある大学への進学を希望していた。ストレスが蔓延している現代社会で人々の、また、地域の支えになれたら、と以前から考えており、心理職の中では臨床心理士というのが最もよく聞く職業だから、という浅い考えによるものだった。そして、その大学のカリキュラム上、資格を取るための講義がたくさん開設されており、最短ルートだと感じたからである。ではなぜ、資格を取るためには比較的遠回りな、文学部を選んだのか。転機は高校2年生の冬におとずれた。

ずっと仲良くしていた友人が精神的に疲れてしまい、うつ状態になってしまった。友人が県外の高校に進学し、なかなか会うことが厳しくなったため、少しでも気分が明るくなってもらえたら、という一心で、よく電話をかけていた。その時に現状を聞いていたのだが、友人は「臨床心理士の方とお話できるのは1時間なので全て理解してもらえるのかが不安」とよく話していた。当事者だからこそ感じることである。私も納得させられた。限られた時間で、また、カウンセラー室などの限られた場所でしか話すことができない。臨床心理士とは私にとって非常にもどかしく、難しい仕事だと感じた。私にできるのだろうかと不安になった。心理学の知識だけでは、この条件の中、私の考える「人を悩みから救うこと」は難しいと考えた。多岐にわたる知識と理解力が大切。これが私が出した答えであり、これから、人の役に立つには、心理学だけでなく様々な学問分野の知識を蓄え、様々な角度からアプローチし、限られた時間で新たな可能性を見つけることができる能力が必要不可欠であると考えた。これから必要とされるのは柔軟な思考ではないか。同時に、そのような思いから私は、学問分野にとらわれず、多岐にわたった知識を吸収することができる文学部進学を決意した。

そして今、学びの多い充実した学校生活を送っている。学問分野は違えども、別の分野に応用させ、より深い答えを導き出すことが可能になる。このように、様々な学問分野に触れ、自分を深めることこそが学問であり、将来の仕事につながるのではないか。現代社会ではAIやロボットの進出により、人手が必要なくなる職業も増えるであろう。そんな中、先人が受け継いできた学問を学び、それを生かすことは人間にしかできないことではないか。そのような学びを私たち若者にもたらしてくれる文学部をなくさないでほしい。文学部で得た知識は、間接的にかもしれないが、必ず、将来を有意義なものにしてくれるだろう。

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