【 奨 励 賞 】
私は小学生の頃、授業参観が嫌いだった。理由は、父も母も仕事で授業参観に来ることができなかったからだ。授業参観は平日に行われることが多かったので、父も母も仕事だと言って、来てくれることは6年間に数回しかなかった。私は、父母から「今回も授業参観に行けない、ごめんね。」言われる度に「どうして仕事休んでくれないんだろう。」「私より仕事の方が大切なのかな。」という気持ちを押し殺して、「大丈夫だよ、今回の授業は見て欲しくなかったからさ、」というふうに笑ってごまかした。親が授業参観に来てくれる友達が本当に羨ましかった。私は、私と父母の時間を奪ってくる仕事が嫌いだった。
そんな仕事への意識が変わった瞬間が2度ある。1度目は、授業参観はもうない高校2年生の頃だ。その日はたまたま駅から母と一緒に帰っていたときに、母が担当している患者さんに声をかけられた。その人は、母の隣にいる初対面の私にニコニコ話しかけて来た。「あなたのお母さんはね、本当にすごいのよ、いつも笑顔で私とお話ししてくれるの、私がこんなにしわくちゃな顔で笑えるのはあなたのお母さんのおかげなの。」私の手を握りながら教えてくれた。それを聞いていた母は、少し恥ずかしそうに笑っていた。母の仕事の話はあまり聞いたことがなかったので、すごく新鮮だった。
2度目は大学1年生の夏休み、家族旅行中でのことだ。家族で談笑していると、父の携帯に職場の部下から着信がきた。父は電話に出ると、私たちと少し離れた場所で電話をしていた。電話をしている父の顔はいつもヘラヘラ陽気な父の顔ではなく、仕事での父の顔なのだな、と私は感じた。電話が終わり、父に「休みなのに大変だね。」と一言言った。そうすると父は、「いや、大変なんかじゃないさ、それに自分が休んでいる間にこうやって部下から連絡や相談がくると信頼されてるんだな、って思うんだよ。さっきも、ちょっと話を聞いてアドバイスをあげたら部下は笑ってたから。よかったよかった。」と少し照れ臭そうに話した。
私はこの2つのことから仕事を通じて自分の仕事で自分を取り巻く人たちが笑顔に、そして自分も笑顔になりたいと考えた。仕事に対して楽しいこと、辛いことどちらも感じるけれど、お客さんでも職場の人でも、そして自分までもがつい笑顔になってしまうような人に私は仕事を通してなりたい。