【 奨 励 賞 】
わたしの父はかっこわるい。朝夕関わらず髪の毛はボサボサだし、10年以上も履き続けたクタクタのサンダルばかり履いている。大きな顔に瓶底眼鏡が埋まっている。中高生の頃はそんな父をあまり好きになれなかった。一緒に歩くのが恥ずかしいから、もう少し小綺麗な格好をしてくれなどと思ったこともある。
けれど、ここ何年かで父に対する思いが変わった。特に就職活動を経たことが大きい。去年の6月から始めた就職活動。夏季インターンやいくつかの就活セミナーなどを経て挑んだ就職活動だったが、ことごとく失敗した。慣れない社会人の方々を前にひどく緊張してしまい、言いたいことも言えずに終わった面接がほとんどだった。大失敗した面接を終えた後お祈りメールを開いてそっと閉じる。重い心を抱えながら乗った帰りの電車の中で周りの人を見渡すと、会社帰りのサラリーマンたちが父の姿と重なった。わたしの父も就職活動を乗り越えて、毎日家族のために35年近く働いているのだと思うと、父が偉人のように思えた。
そんな父も先週、立ち上げの時期から長年勤めてきた部署を異動することとなった。両手でも抱えきれないくらい大きな花束を抱えて帰ってきた。昔から表裏がなく、困っている子がいたら「助けてやれ」とわたしに言った父。仕事の愚痴や誰かの悪口など一回も聞いたことない。そんな父は職場の人からもとても愛されていた。
就職活動がうまくいかなかったとき、父はわたしに何も言ってこなかった。しかし、父の弟にあたるおじさんから父が「あいつ、夜遅くまでエントリーシート頑張ってるんだよ」「緊張しいなところがあるからな」と話していることを聞いて、実は誰よりも側で心配して見守っていてくれたことを知った。
今まで両親や多くの大人に守られ、与えられて生きてきた。社会に出る、ということは今までたくさん与えてもらった分を、今までお世話になった人や次の世代の人へ恩返しするということだと就職活動を通して知った。父が “かっこわるい” のは、自分のために一切お金をかけず、わたしや弟の学費や家族のための出費を惜しまずいてくれたからだった。
不安を表に出さない父を心から安心させられるよう自立したい。社会人になったら両親に恩返しがしたい。そして、いつかわたしにも子どもができたら両親にもらった愛情の全てを今度は与えられるようになりたい。
どんなに髪がボサボサでも、革靴を履きつぶしていても、今日も気丈に仕事に向かう父の姿はやっぱりかっこいい。