【 奨 励 賞 】
金融機関で働き、3年目になった。金融機関で働こうと思ったきっかけは、カレンダー通りの休みで全国転勤が無く残業が少なさそう、強いて言うならお金が好きで貯金をすることが好き、それだけのことだった。
正直やる気があるほうではなく、やるべきことや与えられた仕事はしっかりやらなければいけないという責任感だけで日々働いており、やりがいも見つけられずに窓口に立っていた。
そんなある日、高齢のお客様が100万円を超えるお金を現金で持って帰りたいと窓口にやってきた。話を聞くと、家の工事費用を現金で業者の方に渡すとのことだった。そういった費用は振込で行うことが多いため、少し不審に思い上司に伝えた。
詐欺等を防ぐために、少しでも不審に思うことがあれば警察を呼んで話を聞いてもらうようにと、地域の警察から指導が入っている。そのため上司は警察を呼び、話を聞いてもらうことにした。
警察の到着を待っている間は、お客様にお金を渡さずしばらくお待ちいただいた。だんだんお客様はイライラしてきて、自分のお金なのに何故すぐに出してくれないのか、自分をボケ老人だと思っているのかと怒り出した。
ここまで言うのなら、もうお金を渡して帰ってもらっていいのではないかと私は思った。しかし上司は、警察の到着を頑なに待った。
警察が到着し、お客様に話を聞いている間もお客様は怒り続け、結局警察の方が大丈夫だろうと判断したため、お金を渡し、お客様は怒ったままお帰りになった。
その後、被害等の報告はなかったため、詐欺等ではなく、本当に工事費用を支払っただけだったのだろう。
詐欺被害を防いだわけでもなく、ただお客様を怒らせてしまっただけになってしまったので、間違った判断をしたなと私は思った。
しかしその時上司はこう言った。
「たとえお客様を怒らせてしまったとしても、大切なお客様の大切なお金を守れたらそれでいい。今回は詐欺ではなかったが、これぐらい慎重にならなければいけない。金融機関は詐欺被害を防ぐ最後の窓口だから。」
私はハッとした。
ただ毎日なんとなく窓口に立ち接客していたが、こんなにも重要な役割があったのだと、改めて感じることができた。
現在詐欺の手口はどんどん巧妙化している。若者でも騙されてしまうようなこともあるくらいだ。金融機関はその被害を1件でも多く減らすことに一番貢献出来る場所である。そう思うようになってからは、お客様一人一人の様子をしっかりと見極めようと、よりお客様と向き合うようになった。また、自分の仕事での存在価値を見出すことができ、やりがいも感じられるようになった。
まだ私が接客した中で、被害を防いだり、被害にあってしまったと報告があったことはないが、常に慎重に接客し、これからもお客様の大切なお金を守り続けていきたいと思っている。