【 奨 励 賞 】
先日、担当させて頂いている経営者と話した。その人は若い時に体一つで上京し、沢山の失敗を繰り返しながら、こんなところで負けてたまるかと何度も立ち上がり、一代で会社を築き上げた人だ。辛かったこと、挫けそうになったこと、踏ん張っても全然先が見えなくてもう辞めたいと思ったことだって、きっとあるはずだ。そんな時、側でずっと支え続けた人が奥様だ。食事代がなかったその人を、文句ひとつ言わず居酒屋に連れて行き、何でもない顔をしてご飯を食べた。その時の味を忘れることはないと、その人は言う。私はこの経営者のことが大好きだ。何故かって、理由は簡単。とにかく優しく、暖かい人だからだ。
この人から1冊の本を教えて頂いた。その本には「キミはアリになれるか、トンボになれるか、人間になれるか」という、社会人としての段階を示す賞がある。蟻とは、地道に地を這い、泥まみれになりながら、がむしゃらに進み続ける下積み期間。トンボとは、複眼的に物事を見ることができる例え。そして人間だ。ここでいう人間とはロボットではなく、血の通った暖かさ、自分をコントロールできる強さ、みんなをぐいぐい引っ張っていく力強さを持つことだと表現されている。その人は、まさしく人間だ。沢山の苦労を乗り越えて、ちょっとのことでは吹き飛ばない土台を築いた。土台を創り上げるまでに、どれだけの悔しい思いをしただろう。毎日へとへとになるまで頑張ってきたんだろうな。苦しい気持ちを知っているから、他人に寄り添い、暖かい人なんだ。そんな時代を一緒に戦ってくれた奥様の存在に、心の底から感謝して今でも変わらず大切に守っている。奥様だけには頭が上がらないと、いつも言っている。
若いときの苦労は買ってでもせよと言うが、蟻の下積み期間を舐めてはいけない。この期間は辛くしんどいとわかりきっている。だからこそ逃げてはいけない。そこで踏ん張れた人、諦めなかった人だけが人間になれる。今私は社会人5年目だ。今年は後輩の指導員にも任命された。仕事の質が変わり、業務への責任の重さを感じる。仕事が楽しい、嘘ではない。でも、自分は何もできていないと落ち込むことの方が多い。夜一人で泣くことだってある。私は何ができているんだろう、会社に貢献できているのかな。考え始めるとキリがない。でも一つ確実に言えることは、私は蟻の期間だ。今ここで頑張らなかったら、いつ頑張るんだ。有難いことに、私は人に恵まれている。尊敬する上司、可愛がって下さるお客様、大切な友達、何でも話せる家族。支えてくれる皆んなに頑張っている姿を見せること、これが最大の恩返しだと思うから、立ち止まっている時間はない。
仕事を通じて叶えたい夢。
それは、おばあちゃんになった自分に胸を張って、人間認定をすること。蟻の私、頑張ろう。