【 奨 励 賞 】
平成最後の夏、私は適応障害を発症した。
ある日突然、仕事中に涙が止まらなくなり、その場で過呼吸に。仕事を早退し、その日以降、家から出ることが怖くなり出社できなくなった。医師の診断は適応障害。1か月の休職を経て、会社を退職。社会人4年目、仕事自体は非常に楽しかった。だからこそ、適応障害になってまず、心に浮かんだのは「なぜ私が」という気持ちだった。
子供の頃から体が丈夫だった。
大学生の頃は学園祭実行委員、学生団体の広報、大学のプロジェクトメンバー、バイトと精力的に活動しており、自他共に認めるタフな人間だ。新卒で入社した人材会社での仕事は、転職という「誰かの人生の1ページに関わる仕事」なので非常にやりがいを感じていたし、求人を出している企業からも徐々に信頼を頂き、仕事が楽しかった。だが、体の異変は少しずつ始まっていた。業務量の多さから発生する連日の残業、企業と求職者の間で板挟みになる苦しさ、会社からの期待 ... 様々な重圧にさらされ、寝付けなくなった。朝おきても体が鉛のように重く、人に話しかけられてもぼーっとすることが増え、夜になると突然、涙があふれる。だがその時は単に「疲れているだけだ」と思い、自分の異変には気づかなかった。いや、見て見ぬふりをした。「自分はもっと頑張れるはずだ」そう思いたかったのかもしれない。休職中も同僚に対しての申し訳なさで、涙が止まらず、日常生活もままならない。このまま世界から消えてしまいたいとさえ思った。そんな時、同僚の一言が私を救った。
「自分の心と体よりも大切な仕事なんて、世の中にはない」
その一言で私は憑き物が落ちたかのように、ふっと肩の荷が降りた。
そうか、自分の心と体も大事なものなのだ、と。
そこからは早かった。
このまま休職を続けていても回復の見込みは無いと思い、会社を退職。当面は思い切って休もうと、旅行に行ったり、本を読んだり、時にはひたすら寝てゆったりと過ごした。すると心と体が少しずつ回復し、将来のことを考えることができるようになった。そんな時、友人に「国家資格キャリアコンサルタント」の取得を進められた。「キャリアコンサルタント」とは、キャリアコンサルティングを行う専門家であり、キャリアコンサルティングとは、労働者の職業の選択や職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うことである。前職と近い職種ということもあり、一度体系的に学んでみようと考えた。そして無事、今年の春にキャリアコンサルタントの資格を取得した。
いま、私は母校で大学職員として働いている。
体力等の不安があったため、残業のほぼない仕事を社会復帰の第一歩として選んだ。その一方で大学生時代から好きだったデザインを仕事にし、自宅で兼業している。そして今後、不安が払拭できれば、キャリアコンサルタントとして仕事をしようと考えている。適応障害をきっかけに、過去を振り返り、悩み、苦しみながらも納得して「もう一度、キャリアに関わる仕事がしたい」と自身の今後の目標が見つかったことは非常に幸運だと思う。
新元号「令和」がスタートした。
終身雇用の崩壊、人生100年時代、AIの台頭、働き方改革 ... 私たちを取り巻く環境が大きく変化し、「働く」とは何か、今まさに問われている時代ではないだろうか。私は職業人生の中で一度、転んで立ち止まってしまった。でも、それでもいいのだと思う。一度つまずいた自分だからこそ、キャリアコンサルタントとして同じような状況で苦しんでいる人の気持ちを理解し、一緒に今後の働き方、そして今後の人生を考えるサポートができるのではないか。同時に、キャリアコンサルタントのことを多くの人に知ってもらい、誰もが気軽に相談にいける場を今後つくっていきたい。これから叶えたい夢はたくさんある。
何度転んだって、再び立ち上がればいい。
さあ新しい時代、新しい私の人生の幕開けだ。