【 奨 励 賞 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
ふるさとの自然を未来へ
会社役員(農業法人)  宮 永 幸 則  32歳

1987年、私は播磨灘に面した緑豊かな兵庫県南部の田園地帯に生まれました。私は幼い頃から自然の中に身を置くことが大好きでした。夏休みには必ず、太陽が昇ると同時にセミ取りや川遊びに明け暮れ、毎日太陽が沈むまで遊び回っていました。用水路ではナマズやドジョウ、モロコなどの魚がたくさん採れ、子供たちもみんな元気に水辺で遊んでいました。テレビゲームよりも自然の中で遊ぶことが何倍も楽しかったことを鮮明に覚えています。しかし、小学校3年生ぐらいの頃からでしょうか、急に川や田んぼに生き物が少なくなっていくのを感じるようになりました。小さな水路もコンクリートの三面張りに舗装され、河川には濁った汚水が流れ、田んぼも薬剤臭くなって都市から農家が姿を消していきました。田んぼや畑も埋め立てられ、住宅地や工業地帯に変化していったのです。これは遠い昔の話ではなく、ほんの10年前のことです。

そんなある日、私は友人と田んぼでカブトエビを採っていました。すると、近所の農家のおばさんが急いで飛んできて、「この田んぼには農薬を撒いたから触ったらあかん。すぐに水で手を洗いなさい。」と怒り口調で言いました。私もその時はさほど気にも留めず、手も洗わずにそのまま遊んでいました。しかし、数時間たつと急に発疹のようなものが手に現れ、ひどいかぶれで皮膚の皮が剥け落ちてしまいました。原因は、田んぼに散布されていた農薬が手に触れ、それが乾いて皮膚に炎症を起こしたためでした。数日後、わたしはその田んぼを見に行きました。よく見ると先日まで大量に泳いでいたカブトエビやホウネンエビがほとんど見られません。それは、農薬散布によって全滅していたからです。私は子供ながらに農薬に大きな恐怖を覚えました。この体験は私の記憶に深く刻まれました。

このことがきっかけで、私は高校・大学と農学(有機農業)を専攻し、全国各地の農家を訪問して住み込みでの研究活動を始めました。農家での生活は、「朝は朝星、夜は夜星」という言葉の通り、早朝から野菜の収穫を行い、夜は星が出るまで農作業をするという過酷な日々でした。私はこの経験を通して、農業に対する価値観が大きく変わりました。農家も必死で農薬の使用を減らす努力をしているし、消費者も安全な農産物を求めているのです。自然環境や人体への影響を考えると、農薬の使用は出来る限り減らしていくことが必要なのです。私自身、農薬に対して苦い経験をし、破壊されてゆく自然環境の姿を目にして胸を痛めてきました。

私は現在、農業法人の役員として農業生産に取り組んでいます。全国各地から若者を受け入れ、住み込みで技術を伝えながら未来の人材を育成しています。共に汗を流す中で、農業の大いなる可能性を感じています。21世紀の環境・食糧問題を解決するのは、農業です。私は有機農業の技術を更に深め、ふるさとの山河に再び美しい自然や生き物が戻ってくる努力をしたいと思います。私は、仕事を通して " 人間と自然の共存 " が、ふるさとを守る大きな一歩だと信じています。

戻る