【一般財団法人 あすなろ会 会長賞】
父からの学び
東京都 齋藤麗奈
私の父は、自営業を営んでおり、俗に言う個人事業主である。自宅の一階部分を工場とし、従業員も雇わず、たった一人で自動車の修理、販売を主に手掛けている。正直なところ、私は小さい頃からそれが嫌でしかたなかった。一階全てが父の職場となっている為、生活の場として使用できるのは2階部分だけで平家状態であったし、店舗として目立つように外壁は珍しい水色に塗装。父親が会社員である友人の保険証はキッチリしたものだったのに比べて、自分の保険証は紙製の脆いもの、その理由は挙げればキリがないほどであった。しかし、その考えは今、全て消え去った。学生時代にアルバイトで少しばかり「社会」というものを勉強し、そして現在、社会人として「働く」ことを経験して変化したのだ。
なぜそんなにも考え方が変化したのか。大学一年生の時、折角なら好きなことをしよう、と意気込んで取り組んだCDショップでのアルバイトでは、大好きな音楽、という業界の裏の黒い部分に気付いてしまい、それに関わるもの全てを嫌いになってしまいそうになった。就職活動の時、10年以上続けた唯一の特技とも言える書道に関係する会社から内定を貰うも、これから先の自分の努力やセンスを信用できず、また、それで生活していく勇気もなく、断念する。ここで、私は自分のやりたいこと、好きなことを貫き、生計を立てることの難しさと、その覚悟の必要性を知ってしまったのだ。
今の職場では、多くの個人事業主の方と接する機会がある。業種は様々であるが、どの方も自分のスタイルや軸を持ち、沢山の苦悩を乗り越え、自身の仕事に誇りを持っているように思う。私の目には、それがどうしても輝いて見える。こんな風に働くことができたら、どれ程格好良いことだろうか。
それに比べて自分はどうか。社会人2年目、まだまだ分からないことの方が多く、上司や先輩方に迷惑をかける毎日で、この仕事に対する誇りも、自分のスタンスも見出していない。呆れるばかりである。小さい頃の自分に、父親のことより自分のことを心配しろ、とでも言いたい程だ。
ただ、ポジティブにも考えてみる。まだまだ新人に毛が生えた程度、仕事に対する誇りを見つけるのは、これからではないか。この短い社会人生活の中でも、喜べる出来事ややりがいを感じる時はいくつかあった。これからはそれを増やし、伸ばし、身に付けていくことで、父のように働きたい、そんな夢を現在、見ているところである。