【公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞】

会社ではなく「人」に貢献するということ
東京都  Yui Sasaki Diaz
 「ボーダレスに働くこと」これは私が働く上で大切にしていること。
 昨年、2年間の主婦生活を終え、上京し派遣社員としてファッション雑誌出版社の総務に配属された。
 私の仕事のパートナーは、障害者雇用の笑顔の美しいMさんだった。日々の業務の中で「おもてなし」をとても大事にしている彼女の仕事ぶりには、いつも愛が詰まっていた。美しく磨きあげられた会議室、整えられた文房具、年号別に並べられた雑誌。彼女のおかげで社員は気持ちよく毎日仕事をすることができた。
 そして、私は総務で働くにはコミュニケーションが最も大事!と考えていたため、私は密かに「猪木作戦」を実行していた。各フロアですれ違う人に、「元気ですか?」と声をかけるだけのシンプルな取り組み。
 私はバリバリの関西弁で誰でも話しかけるもんだから、幸い割と早い段階で多くの社員に覚えてもらえるようになった。「派遣だから」「社員だから」とか「お掃除のおばちゃんだから」とか全く関係なく毎日いろんな人と関わることで、「ここにいる間にこの人たちに貢献したい!」と感じるようになった。
 そして、Mさんとあるプロジェクトを遂行することにした。地下の倉庫が見るも無残に荷物が積まれ、在庫の管理はおろか、緊急事態用の備蓄も奥底に追いやられていた。
 何が起切るかわからないこの時代、在庫の見える化をすることで重複発注の防止が経費削減にも繋がる、それに災害が起きても避難経路を確保することで大好きな社員を守ることができる!デメリットはなし!そうプレゼンし、倉庫の大改造計画に乗り出すことにした。3ヶ月間、Mさんと毎日泥だらけになりながら断捨離した。もちろん、勝手に捨てたりはできないので社員を呼び出し、「みんなに最高のパフォーマンスをしてもらえる環境を作りたい!」と伝えると全ての人が協力してくれた。この倉庫改造計画は、3年ほど放置されていたそうで社長秘書はものすごく喜んでくれた。そこを通りかかる警備員さんや掃除のおばちゃんに「あなたが来てどんどんこの会社が美しくなってる」と言ってもらい、嬉しくて鼻をこするといつも私の鼻は少し黒く汚れた。そんな汚れさえも、目標に向かっていく私たちにとっては勲章に思えた。
 3ヶ月が経過すると、倉庫は驚くほど美しくなった。2tトラックを呼んで全てのゴミを撤去したときは、たまらなく気持ちよかった。でもその頃、私はすでに「この目標達成へのガッツとコミュニケーション能力を使って新たな道へチャレンジしたい!」と思うようになり転職活動を続けていた。  数ヶ月後、晴れて転職先が決まり年末に私の退職が決まった。
 最終日は、社内クリスマスパーティ。ちょうど、関わった全ての人に会える最後のチャンス。私の退職の話は社内で告示済みのため多くの人が私のテーブルにきて感謝を伝えに来てくれた。そのパーティーでは「社長賞」という名のこの1年会社に貢献した人に送られる授賞式が開かれていた。トップクラスの編集者が次々に名を連ねスピーチする姿。それはそれは眩しかった。
 そんな中、最後の最後で、私とMさんの名前が呼ばれた。
 気がつけば、みんなが私たちの方を向いて拍手している。
 私たちは、頭が真っ白になりながら舞台に立った。
 「この賞で、総務が呼ばれたのは初めてのことです。彼女たちが選ばれたことが社長としてすごく嬉しい」と握手をしてくれた。
 届いたんだ。私たちの気持ち、みんなに届いてたんだ。
 何より障害を乗り越えてひたむきに仕事していたMさんが「ありがとう〜!」と言葉を浴びせられている姿に涙が止まらなかった。
 全力で駆け抜けてよかった。大好きな人たちのために本気出してよかった。派遣とか社員とか関係なしに評価してくれる会社で本当に良かった。
 私は今、新たなステージへたちIT業界で人事をしている。コロナで子育てをしながら在宅勤務をしたり不安は尽きないが、強い信念が今日も私を突き動かすのだ。
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