【 厚生労働大臣賞 】

私っぽい人生
沖縄県  山本優実

高校を中退した時、これからは「中卒っぽい人生」を歩むのだろうと思っていた。高校中退後すぐにホステスとして数年間働いたのは、他ならぬ「一番中卒っぽい仕事」だと思っていたからだ。きっとこのまま店で出会ったお客さんと恋愛して、なんとなく結婚するのだろう。それが私が当時描いた、安易な「中卒っぽい人生」だった。


ホステスの仕事に慣れてきた頃、たまたま友人のネイルについて行ったことがきっかけでエステという仕事を知った。19歳の頃だ。世の中にはこんな素敵な仕事があるのかと感動し、すぐに専門学校へ入学した。学費はホステスとバーのバイトを掛け持ちして全額支払った。勉強を好きになれなかった自分が、お金を払ってでも学びたいことに出会えて嬉しかった。周囲からは「遊びを全部我慢して偉いね」と言われたけれど、全然幸せで快感だった。


そして専門学校を無事卒業し、エステシャンになった。エステシャンとして働く自分は、自分で言うのも何だけど、とても輝いていた。技術や接客を磨けば磨くほど自信になったし、なにより女性が輝く瞬間に立ち会える仕事が誇りだった。


かれこれ6年ほど働いたのち、体を壊して一度離れることにした。当時26歳。技術職だからいつでも戻れる。そう自分に言い聞かせ、体を優先することにした。離れてからまずPCの勉強をした。周囲からは「遅い」と言われたが気にしなかった。


実は長い間憧れていた職業があった。文章を書く仕事だ。子どもの頃から日記をつけていた私は、文章を書くことが大好きだった。エステシャンの頃もブログを毎日書いていた。挑戦...してみようか。そう思った。思ったので挑戦することにした。


自慢じゃないけど学歴はないが運はある。奇跡的に入りたい会社への入社が叶い、Webの編集職につけることになった。企業っぽいところに務めるのは初めてで、最初はとても緊張したけれど、環境にも上司にも恵まれた。


会社はお金がもらえる学校だ。中卒の私でも学ぶ意欲があればいくらでも勉強できる。会社にはとても良い福利厚生があった。なんと本を会社のお金で購入することができるのだ。セミナーの受講も無料。天国だった。私は自分が思っていたよりも早いスピードで得たいスキルを習得した。


天国のような会社で3年間勉強させてもらった後、私は独立してフリーライターになった。気付けば中卒という属性なんて一切気にせず、好きな仕事を好きなやり方でやっている。奇跡だ。独立して3年が経ったが、相変わらず仕事にも仕事相手にも恵まれた生活を送っている。本当に奇跡である。


よく、大学では一般常識や勉強の仕方を学ぶと聞く。たしかに自分には教養が足りないと感じるシーンは多々あるし、学歴コンプレックスがまったく無いわけではない。だけどそれ以上に、社会に出てから得た学びの数々が誇りだ。


仕事のおかげで嫌いだった勉強が好きになった。仕事と学びが、選択肢のなかった人生に多くの選択肢をくれた。そういえば以前はとても人見知りだったのに、ホステスの仕事を通して人と話すのが好きになったし、エステの仕事は私に「やりがい」を教えてくれた。編集の仕事からは、人と仕事をすることはどういうことかを学んだ。今はフリーライターとして、企業の社長さんやお店を経営する人、農業をする人や地域活性活動を推進する団体など、色んな人に取材しているから、毎日が勉強だ。そういえば前の会社で出会った人と2年前に結婚した。尊敬できて尊重してくれる、素敵な人を選べる自分にいつの間にかなっていた。


働くことは自己実現だ。私は働くことでたくさんのものを手に入れることができた。出会ってきたすべての仕事がなければ、きっと当時描いていた「中卒っぽい人生」を歩んでいただろう。だけど私は、仕事を通して「私っぽい人生」を手に入れたのだ。従事したすべての仕事を心から誇りに思う。

戻る