【公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞】
私は、今年で社会人2年目。正確には“1年と11ヶ月目”である。何故なら今年の3月、休職してしまっていたからだ。朝起きられないほどのめまいに悩まされ、初めて心療内科を受診したところ、適応障害と診断された。契約終了まで一回も出勤できず退職することになり、前の職場にはかなり迷惑をかけてしまった。しばらく回復に努めようとも考えたが、空白の期間が長引けば長引くほど、社会復帰が難しくなりそうだと感じ、奮起し就職活動をした。
4月からの新しい職場は、職種が前と同じであったため、これまでの経験を生かし、早く仕事に慣れていこうと意気込んでいた。だが、私は大きく、良い意味で裏切られることになる。同じ秘書室で働く、ベテランの先輩によって。
正直、面接の時には少し怖い印象を持っていた。それは、まだ自分自身がカウンセリングを受け、不安定な精神状態だったのも影響していたと思う。秘書を絵に描いたような方で、座っている姿勢、話し方どれも洗練されており、かつ自然だった。ただ検定を持っているからという理由で応募した自分と比べると、差は明らか。浅はかさを見透かされていそうでとても不安を覚えた。
ドキドキしながらも迎えた初日。彼女は「電話は今はとらなくていいからね」と言った。私は戸惑った。何故なら去年は、初日からすぐに電話番だったからだ。また私自身も、大学生時代に3年半アルバイトで電話応対の経験があり、自信はあった。しかし、やはり彼女の声のトーンや、話し方などを見ると、どれも勉強になった。そこで私は必要なことを忘れないようメモしていった。また、彼女も今のはどういう電話で、その場合はこのようにすると、一件一件の対応を丁寧に説明してくれた。
そしてちょうど一週間が経ったある日。たまたま彼女が別の電話に対応中のところ、私のところの電話も鳴った。この時秘書室には別の課の先輩もいて、私を促し、そこで初めて電話をとった。緊張はしたものの、これまでにみっちり基礎を教わっていたので、臆することなく無事に対応することができた。用件を伝えると、彼女からは「大丈夫でしたか?ありがとうございました。」と言われた。
このとき、私のことをちゃんと新人として扱って指導してくれるこの人に、恩返しがしたいと思った。去年は、全員がそうだった訳ではないが、非正規雇用なのだから、即戦力が当たり前、とまではいかないものの、やって当然、知ってて当然というように思われていると感じてしまっていた。考えすぎなのだが、正規雇用との差を猛烈に受けたのだ。中途半端に新卒での就職活動を投げ出さず、ちゃんとどこかに正規雇用してもらえてたら違っていたのかもしれないと悩んだ。また、私も分からないことがあれば聞くようにすべきであったし自覚はあったものの、基本的なことであるのになかなか難しく、甘えかもしれないが、実践できずによく注意を受けていた。
そのような状況だったため、今のこの環境は私にとってとても有難い。そして心の底からこの人の役に立ちたいと思った。これこそが働くことの原動力ではないか。
またしばらくして、彼女は「最近眠れている?」と聞いてきたので、ドキッとした。どうして分かったんだろう。彼女は続けた。「毎日たくさん教えてしまって、大変じゃないかなって心配で。」泣きそうになりながらも、私は心を込めて言った。「大丈夫です。むしろありがたいです。こうして丁寧に教えてもらって。」と。
周りの他の先輩方も、私を見かけると「もう慣れた?」と優しく声をかけてくださった。私はこのようにしてくれたことを決して忘れないでいようと心に留めた。いつか誰かに教える立場になったときに私も出来るようにしたいからだ。
働くことは生活していく上で重要であるし、1日の大半を占めている。人間関係を大事にし、この人のためになることをと思えることがよりよい労働に繋がると、私は身をもって実感した。