【 一般社団法人 日本勤労青少年団体協議会 会長賞 】

お仕事=推し事?
埼玉県  まさ 29歳

「地域から愛されるお店にするためにはどうすればいいと思う?」


当時私がアルバイトをしていたカフェで店長から人事面談で質問された。
 (クオリティの高いドリンクを出すこと?)(お店の中を清潔に保つこと?)(素早くサービスを提供できること?)色んな考えが私の頭の中を巡った。しかし、店長から出た言葉はとても意外なものだった。
 それはね、自分のファンを増やすことだよ」
 頭の中に(?)がたくさん浮かんだ。
 なんとなく意味は分かるけど、ファンってどうやってつくるの…?自分、アイドルじゃないし…。店長の言葉が頭の中をぐるぐるめぐる日々が続いた。そんなある日、お店のバックヤードから表に出たとき
 「あ!お兄さんいたー!いるかなーって思ってきたんだよー!」
 と声をかけてくれたお客様がいた。その人は常連さんで、どうやら自分の出勤する日を覚えていてくれて、わざわざ仕事帰りによってくれたらしい。別の日の朝には、
 「いつもね、あなたの笑顔を見ると、今日も1日が始まるんだ!って気持ちになれるのよね。」
 と言ってくれるお客様がいた。そういう経験をしていくうちに店長の言っていたことがどういうことかわかってきた。誰かに必要とされ、意味のある存在になれることってすごく幸せなんだと強く感じた。それからはとにかく自分のファンを増やしていこうという意識のもとで働いた。そして、私のまわりの尊敬している先輩を観察すると共通していることがあった。それは、「いつも笑顔でいること」、「相手の気持ちに寄り添うこと」、「実力があること」だ。店員としての確かな実力こそ魅力に直結するのだろうと感じた。しかし、そのためには日頃から学び続けなければならない。だからこそ、接客やコーヒーの知識について必死に勉強した。
 そして、働いているうちに気づいたことがある。ある日、急遽ヘルプでお店に行ったら
 「あ!今日まささんいるー!一緒に働けるのうれしい!」
 と言ってくれた後輩がいた。その時にハッとした。ファンはお客様だけではない。一緒に働く人たちこそ、お互いを尊敬し合い、求められる存在でいたい。働く我々が満たされることで、お客様を満たすことができる。そこからは「自分だから力になれる人がいる」という信念をもって働くことができている。


時は流れ、今私はずっとなりたかった小学校の先生をしている。今でも「自分のファンつくる」という信念は変わっていない。それに、自分の実力を磨くことも忘れないようにしている。
 「自分だから救える人がきっといるはず」
 以前、とある子どもを6年生で担任したときに手紙をもらった。その手紙には、「実は今までは学校に来るのが怖かった。けど、先生の笑顔を見た瞬間、心がふっと軽くなった。学校を大好きな場所にしてくれてありがとうございました」と書かれていた。心の中に、じんわりと、でも強く響くものがあった、たった一人かもしれない。でも、一人でも意味のある存在になることができたうれしさはひとしおだ。
 振り返ると、私という存在に意味を見いだし、必要としてくれた方々がいてくれたからこそ、今の自分がある。これまで出会った人達には心から感謝している。そして、働くことの尊さとやりがいを教えてくれたあの店長には感謝してもしきれない。
 働くのは生活のため。それはもちろんそうだ。
 でも、誰かに必要とされること、誰かのために動けることは何よりも尊く、幸せなことだと私は思う。それに、頑張って働いているあなたのことを応援しているファンはきっといるはずだ。そう思うと、なんだか働くのって楽しく感じないだろうか。私はこれからもたくさんの人に推してもらえるよう頑張っていきたい。


そして何よりも、私はこれからも、いつまでも、あの店長の大ファンだ!

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