【厚生労働省 人材開発統括官賞】
私はマッサージ施設で働いています。施設は会社の中にあって、社員を対象にマッサージをします。福利厚生施設として、お客様で毎日いっぱいです。
この仕事はヘルスキーパーと言い、誰にでもできるものではありません。二つの条件があります。一つは、あんま・マッサージ・指圧師の国家資格を持っていること。もう一つは、視覚障害があることです。
人それぞれ、違いを持って生きています。私は視覚障害という違いがあったことで、今の職場と縁があり、楽しく働くことができていると感じています。
私が職場で学んだことは、プロとして自信を持つということです。入社当初、私は声が小さく、緊張して早口になっていました。生まれつきの白内障で、太い眼鏡をかけています。ぼやけた世界を少し矯正してくれる大切なものですが、小さい頃にからかわれたことがあって、ずっと人見知りでした。お客様は普通に見えている方だと思うと、緊張してこわごわ、体に触れていました。
そんなとき、店長が
「自信もっていいんやで」
と言いました。「こういうふうにするねん」と、店長は施術に入ります。信頼関係を築いている店長とお客様の会話は、とてもテンポがよく、私は耳をすましました。すると店長は私の話をします。施術の練習を頑張ってしているという話です。お客さんは「それは楽しみ」などと話しています。そして施術後は「楽になった」「気持ちよかった」と店長へたくさん言われていました。
次にそのお客様の施術に入ると「中条さん、頑張ってるね」と言ってくれました。店長が、お客様との距離を縮めてくれたのだとわかりました。
私も店長と同じように、満足していただけるような施術をしたい。見た目のことは、いつの間にか考えなくなっていました。
それでも視覚障害があるゆえに、失敗してしまうことはあります。名札が逆向きだったり、名前を間違えてしまったりします。どこかで、ミスをしてはいけない。視覚障害者が働いているからと言われたくない。とむきになっていることもありました。
みんなに店長は話します。
「焦らなくていい。みんな、しんどい時期をなんとか克服してきて、ここにいてるんやろ? だいじょうぶ。明るく、堂々としていればいい」
店長はもともと普通に見えていて、病気で見えにくくなったそうです。車に乗って、普通に仕事をしていたのに、急にぼやけた世界になる。生まれつき視覚障害の私には、想像もできないことです。どちらがしんどいとか、測ることはできません。けれど「違い」を持って、それらを克服したり、受け入れている人たちは、自分に厳しく、決して手を抜きません。そして周りに対して、とてもあたたかくやさしいのだと気づきました。
十名を超えるときもあるスタッフルームは、いつもにぎやかです。「通ります」と言葉が飛び交います。視覚障害といっても、全く見えないという人は少なく、光はわかったり、見えているけれど視野が狭いということもあります。すれ違う時に、わかる人が声をかけるのです。存在を示すために手を叩いて歩く人もいます。声とたたき方で、だれが通るのかは見えていなくても把握できます。ぶつかっても「ごめんね」と笑って、話が続くことが多いです。
店長のおかげで私は、お客様にあたたかく、やさしい気持ちで施術・接客ができるようになりました。お客様に触れた一点一点に、自信を持ってマッサージが出来るよう、六年目の現在も知識と技術の向上に努めています。店舗の雰囲気は、店長を筆頭に私たちが作っていくものだと感じます。それらはお客様にもきっと伝わっています。
「ありがとう」という言葉をたくさんいただきます。お客様からと、二つの条件をくぐり抜けた大切な仲間。そして店舗を支える方々からです。それらに感謝して、お客様により良いサービスが提供できるよう今後も精進していきます。