【公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞】
突然ですがクリスマスって素敵じゃないですか?
大切な人にプレゼントを贈ったり、ケーキを食べたり…そんな特別な日の裏側の世界で私は働いてます。
17歳の冬、12月23日。私はパティシエ見習いとして洋菓子屋に足を踏み入れました。
入った瞬間からお菓子の家に潜り込んだような甘い香りに包まれ、今日からここが職場になるという嬉しさがこみ上げました。初めての仕事は何だろ?とそわそわしていたのもつかの間、
「とりあえずこの苺のヘタ、全部取って。」
え?思考が止まりました。1箱4パック入のダンボールが9箱。ドサッと目の前に置かれました。
いや、ズシッッッと。考える暇もなく取り掛かり、言われた通りひたすらヘタを取り続けました。終わった後、時計を見るとすでに2時間。息つく間もなく、
「終わった?じゃあこれも切って。」
さっきの倍、18箱の苺が目の前に置かれました。思考は完全に止まり、無我夢中で取り掛かりました。
やっとの思いで仕事が終わった真冬の帰り道、ふと手を見ると真っ赤になっていました。苺で染まったのかぁ…たくさん切ったな…と苺と格闘した1日を振り返りました。
次の日、世はクリスマス・イブ。この日は9時出勤予定。しかし時刻は10時。1時間あれば、苺が36パック切れます。逆に言えば“36パックもの苺が切られていないまま”ということです。
到着してすぐさま言われた言葉は「いいから、やって。」 遅刻の分を取り返すつもりで一心不乱で苺を切り続けました。
何とかクリスマスを乗り越えた28日、またしてもやらかしました。開店10分前の9時50分。到着してすぐ着替えロッカーから飛び出すと、工場長と鉢合わせました。ふっくらとした体つきの優しい見た目から放たれた言葉は、
「仕事の重要さが分からないなら来なくていいから。」
このままではクビになってしまう、と焦りました。
「店員の質が店の質を作ってる。意識を高く取り組むように。」
朝礼での工場長の言葉は私に向けられているのだと思いました。
その日は袋詰めの仕事を教えてもらいました。マドレーヌ、フィナンシェ、パウンドケーキ…綺麗に焼き上がった菓子を1つずつ小袋に詰める作業です。規格外の大きさや空気穴が空いているような“ワケあり”商品は弾きながら詰めていきます。並んだ焼菓子を見ていると、朝礼で工場長に言われた言葉を思い出し、今の自分と重ねてしまいました。
〈私、このお店にとって“ワケあり”になっちゃってない…?〉
そんな事を考えていた時、工場長から声をかけられました。
「仕事早いね、手先が器用なんだね。」
気にかけてくれているんだという嬉しさと同時に不甲斐なさや色んな感情がお菓子の生地のように混ざり合い、出来上がったものは仕事に対しての責任感でした。ただのバイトだと思っていた浅はかな考えを見直し、“お店の質を作っている一人”として役に立てるようになろう、そう決心しました。
仕事を甘く見ていた自分から変わりたいと思い、何でも学ぼうと取り組むようになり、2年目、3年目とクリスマスのたびにできる作業が増えていきました。そして、今年の初めに社員リーダーから言われました。
「今年のクリスマスはスポンジからお願いするね。あとクリームを立てるのも任せようと思ってるから、頑張って。」
クリームを立てる、と聞くと簡単そうと思われるかもしれません。しかし、目を少し離すと分離してしまい、全て捨てることになるクリーム立てはそんな甘いものではありません。クリスマスケーキはクリームが無ければ始まらないため失敗は許されません。それを任せてもらえるまで成長できたことに、ニコちゃんマークのような笑顔を浮かべてしまいました。
初めてのクリスマス、苺をひたすら切ることしかできなかった私。4年目のクリスマス、ついにクリスマスケーキを作ります!