【公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞】

テーマ:@仕事・職場から学んだこと
1年前、いまの仕事を辞めようと思っていた私へ
滋賀県  おにぎり 30歳


 「新入社員は5年以内に異動」。入社4年目を過ぎたあたりから、「そろそろ異動かもしれない」なんて落ち着きのない日々を過ごしていた。覚悟はしていたものの、実際に部署異動を命じられると想像以上のショックを受けた。というのも、私はその時大学のキャリアセンターで学生の就職支援をしており、まさに自分がしたい仕事を叶えられる部署にいたのだ。
 
 高校生のときから、働いて心を病む人が多いことに疑問を抱いていた。「なぜ、心の限界が来る前に逃げることが出来ないのだろう。仕事を休んだり、他の仕事を見つけたり、違う選択肢も取れたはずなのに、どうして仕事が生活の最優先事項になってしまうのだろう」。そんな疑問から大学は心理学部に進学し、卒業後にキャリアコンサルタントの資格を取得した。
 
 入社後は、運良く希望の部署であるキャリアセンターに配属され、学生支援にやりがいを持って働いた。何より学生の成長が見える上、自分の学んできたことが少しは役に立っているように感じる。「最初の仕事選びが肝心で、自分に向いていること、向いていないことを知るためにも、就職活動における企業研究や自己分析が最も重要。なりたい姿から逆算して、今できることを考えるべき」。キャリアセンターにいたときは、それが正解だと信じて疑わなかった。目標に向かって正しい努力をすれば叶うものだと思っていた。
 
 転機は入社4年目の秋に訪れた。異動を命じられた先は、卒業生のネットワークを構築する部署だった。一概に卒業生といっても、年齢や性別、職業や居住地も様々で、新卒から70歳を越える人まで、とにかく多様な人とコミュニケーションを取ることが仕事になった。関わる人が増えていくにつれ、自分の中にある漠然とした不安がより明確になっていく。先輩方から「若い時の経験があったから今がある」という話を聞く度に、常に「このままでいいのだろうか」という焦りが私を苦しめた。「仕事は順調。でも、それだけで仕事をしていけるような専門性はないし、誰かにアピールできるような経験もない。せっかく、念願だったキャリアに携わる仕事をしていたのに、部署が変わると全く違う仕事をすることになる。30歳を前に、転職してもっと専門性を磨いた方がいいのではないか」。そんな不安と焦りを抱えながら、目の前にある仕事に没頭する日々を過ごした。目指していた姿と全く違う場所にいながら、行動を起こす勇気もない。そんな自分が嫌だった。
 
 それから1年が経過した。私は引き続き同じ部署で活躍する卒業生を取材し、記事にまとめる仕事をしている。数々の卒業生にインタビューする中で、1つ気が付いたことがある。それは、歳を重ねても、役職を重ねても、誰もが迷っていた時期があったということだ。子育てや介護と仕事を両立できるかどうか、海外で挑戦するかどうか。人生の大きな決断が、誰にでも訪れていた。よく考えれば当たり前のことではあるが、いわゆる成功者と言われる人達もキャリアについて悩んでいた時期があったなんて、考えたことも無かった。そして、多くの人が口を揃えて言った。「今の自分があるのは偶然の出会いのおかげ」であると。いま生き生きと仕事をしているのは、偶然の出会いや経験を、キャリアに活かしているからだろう。当初思い描いていたキャリアとは違っても、好奇心を持って挑戦していくこと。それが数十年後の自分に繋がるのだと知った。
 
 1年前、いまの仕事を辞めようと思っていた私へ。当時の私は、自分のなりたい姿に向け、努力することが1番正しいと思っていた。ただ、多様な価値観の人々と関わる中で、そうではない生き方もまた正解だと考えるようになった。いまの私は、偶然のチャンスを活かせるように、常に面白い方を選んでいきたい。数十年後に振り返ったときに、あの時の偶然の出会いや機会が、今に繋がっていると話せるように。

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