【公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞】

テーマ:@仕事・職場から学んだこと
「私の服の向こう側に」
兵庫県  崎山 美咲 26歳


 着ること、食べること、暮らすこと、その向こう側には必ず人の“働く”があって、人生がある。昨年の夏、私は大好きな一枚の服の生産者さんに会いに、インドを訪れた。どんな人がこの服をつくってくれたのか、知りたかった。その生産者さんに会うことで、もっとこの服を大切に想うだろうという直感もあった。生産者の一人、サンディハさんという女性から聞いた“働く”にまつわる言葉が、今も深く心に残っている。
 私が向かったのは、依然として多くのスラムが残るムンバイという都市。女性達の自立支援の一環として洋服をつくっているNGOを訪問した。工房に入ると、生産者の皆さんが満面の笑みで迎えてくださった。そしてそこには、自信に満ち溢れ、まるで“私の働いている姿を見て!”と伝えるかのようにミシンに向かう姿が輝いていた。
 生産者の一人であるサンディハさんは、今もスラムに住みながら約20年間その場所で働いている。そんな彼女に「あなたのこれからの夢は?」という質問をさせていただいた。すると、「娘達や夫が幸せであり続けることが夢で、そのために働くことが出来ている今がとても楽しい」と教えてくれた。夢を語るとき、一番に誰かのためを想うことは、なんて美しいのだろうか。
 大切な誰かのために働く。私にとってその大切な誰かは、サンディハさんをはじめとしたインドの生産者さん一人一人。このインドでのインタビューの様子や働く姿を、ドキュメンタリー映画として作品にした。映画のタイトルは「私の服の向こう側に」。クラウドファンディングでインドへの渡航資金を募り、制作チームを結成し、映画として形にした。現在は、日本各地でその上映会を行なうことが私の“働く”になっている。
 この映画を企画したきっかけは、日本のフェアトレードの認知度の低さを少しでも改善させたいという気持ちだった。私は18歳のときにはじめてカンボジアという国に訪問し、その時から約8年間、NGOでのインターンやフェアトレードブランドでの勤務など、さまざまな形で途上国とのつながりを続けてきた。日本という恵まれた国に生まれた私だからこそ、なるべく世界がフェアであるように自分にできることを探して行動し続けたい。それは働くを超えて、生き方を考えるときに根幹にある私の軸だ。
 サンディハさんの家族への想いを聞いた時、自分の想いと重なり、誰かを想う気持ちは世界のどこにいても何よりの原動力なのだと確信した。彼女のつくった洋服は、フェアトレードの仕組みで日本に届き、いつでも購入することができる。一枚の服の向こう側に、サンディハさんのような人の人生があると実感することは、購入者である私の心もあたたかくしてくれるものになる。想いを向ける場所は身近な家族のためでも、海の向こうの誰かのためでもいい。働くに込められた想いが輪となって循環したとき、きっとそれは働く時間だけでなく人生そのものが豊かに彩られていくはずだ。

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