【公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞】
この春、私は高校に進学した。高校を卒業する頃には18歳になり、現在の法律では成人になる。選挙権を持つようになれば社会的責任も負う。大学進学も控え、将来の進路も考えなければならない。
私には、かなえたい目標がある。それは働くことを通じて、福祉の課題を解決したい、ということだ。
両親共働きの我が家では、夏休みは姉とともに祖父母の家で過ごした。田舎にある祖父母の家は、自然豊かで緑が美しく、空も太陽も東京で見るよりずっと鮮やかで力強かった。祖父母とともに過ごした日々は、今もくっきりと写真のように、私の記憶に鮮明に残っている。しかし3年前、その祖母が認知症で入院した。私のことはもうわからない。退院することはもうないらしい。突然ひとり暮らしになった祖父は傷心し、日々の生活にも苦労しているため、東京から毎月母が様子を見に行っている。
このように、祖母の入院により、家族の生活は一変した。行政の力を借りるために市役所に出向く祖父には、移動手段もなく、大変な思いをして通っている。運転免許を返納したので、公共交通機関を使うしかないのだが、地域のバスは一日数本しかない。1日がかりで苦労して市役所に行っても、書類不足で手続きがままならないこともあった。疲れ切った祖父は、支援の申請をあきらめてしまった。福祉制度は、その制度を知って申請をしないと必要な支援が受けられない。必要な情報は広報に掲載しているといわれるが、その書類を読むことも、高齢の祖父にとっては、難易度が高い。では市役所に行ければよいのだが、田舎で車もなければそれもままならない。
入院している祖母、ひとり暮らしに苦心する祖父、そして地方に住む高齢の両親を介護する母。これは現在の日本において、決して特別な状況ではない。令和2年、内閣府の調べによると、65歳以上の高齢者のうち、男性15.0%、女性22.1%がひとり暮らしである。夫婦そろっていてもどちらかが入院している世帯を含めたら、その割合はもっと増えるだろう。更に、超高齢社会において、この割合はますます増えるに違いない。両親や祖父母を見ていて、私は将来福祉分野の社会課題を解決する仕事に就きたい、と思っている。医療サービスや福祉サービスなど、受け身な支援ではなく、能動的に高齢者とその家族を支援する仕組みづくりをしたい。具体的には、3つある。
1. シニア向け生活支援サービスの一元化。現在ベンチャー企業を中心に新しい技術が開発されている。見守りサービスがその代表例だ。高齢者の生活サポートを支援する、シニアテックのベンチャー企業のサービスをまとめて、必要な人に支援する。
2. デジタルの活用。行政のアプリで年齢や介護状況を入力すると、受けられる行政サービスが自動で配信される仕組みづくり。これは出産時の手続きや、生活保護など、他の福祉サービスにも応用したい。
3. 老化予防のための学校づくり。痴ほうや老化による運動神経の衰退を防ぐための、「高齢者の学校」を創る。少子化で廃校となる学校を使い、学校と同じように時間割を作る。科目も小学校と同じ種類で内容を高齢者向けに作り替えることで、痴ほうや運動機能の衰退を防ぐ。給食も提供したい。
高齢者の生活が、難しくなる前に対策を取りたい、もしくはもしそうなってももっとも簡単な方法で、安心できる生活を支援したい。両親の老化、また自分自身が年齢を重ねることは、全ての人に等しく与えられる人生経験だ。高齢となっても、ひとり暮らしであっても、安心した生活が送れるような仕組みづくりに貢献したい。それが、私が描く、仕事を通じてかなえたい夢だ。