【厚生労働省 人材開発統括官賞】
私の仕事は電気工事士。その中でも外線と呼ばれる電柱工事に特化したスペシャリストです。子どもの頃に思い描いていた夢とは大きくかけ離れていますが、幼い頃から当たり前のように使っていた電気を支える職業について深く知ることはありませんでした。
私たちの生活に欠かせない電気を届けることが私の仕事です。しかし、この「当たり前」を届けることは決して簡単なことではありません。例えば、12mもの高さの電柱に登り、胴綱と呼ばれる一本の縄に体を預けて、両手を使って作業を行います。また、家庭用電力の66倍にあたる6600ボルトの高電圧が流れる線を、マジックハンドの専用工具で手の代わりに切断したり接続したりすることもあります。こうした作業を通じて、私たちは安定した電気を送り届けています。この仕事では、一度のミスも許されず、失敗は命に関わることもあります。それでも、生活の「当たり前」を守るために、日々取り組むのが外線工事という仕事です。
今でこそこの仕事に就いている私ですが、昔はもっとスター性のある職業に憧れていました。小学6年生の時、イチロー選手が2000本安打を達成したニュースを見て、プロ野球選手に憧れていたことを思い出します。今も昔も、子どもたちは華やかで輝かしい職業に憧れるものです。それに比べて私の仕事である外線工事は、町中でたまに見かける程度で、何をしているかまではあまり知られていない、地味な職業だと感じています。
しかし、そんな地味に見える仕事にも「町のスター」として輝く瞬間があります。特に台風のシーズンである7月下旬から10月末にかけてが、その時期です。台風で電線が切れると勤務時間外でも緊急作業に駆けつけなければなりません。横殴りの雨や目を開けるのもやっとなくらい強風の中、過酷な環境で作業する姿は、一枚の絵画のような迫力があります。修理した電線をつなぎ直していくと、町全体が少しずつ灯りを取り戻していく様子は感動的です。「町を支えているのは自分だ」とも思える瞬間です。工事が終わり、電気が灯った時に見えるお客さんの安堵の表情やありがとうの一言は、私にとっては大きな誇りであり、この仕事を選んで良かったと心から思える瞬間です。これが「町のスター」として輝ける瞬間です。
最近では、建設業イベントで子どもたちに高所作業車の乗車体験に出向く機会があります。この体験は、まるで遊園地のアトラクションのように多くの子どもたちが列を作るほどの人気です。一緒に高い場所まで上がり「普段はこんな高さで作業しているんだよ」と声をかけますが、高さに怯える子もいれば、遠くの景色を楽しむだけの子もいて、仕事の魅力を伝えきれていないともどかしく感じることもあります。それでも、こうした経験をきっかけに少しでも興味を持ってもられたなら、それで十分だと思います。親御さんが撮った写真を後で見返して「こんな高いところで仕事してみたいな」と思ってくれるだけでも嬉しいものです。こうした活動を通じて少しずつでも私たちの仕事の魅力を伝えることで、子どもたちの将来の夢につながることを願っています。また、後輩には「車で通ったときに『あれは自分がやったんだ』と誇れるような工事をしなさい」と伝えています。私自身、子どもと一緒に車で現場近くを通る際には、「これはお父さんがやった仕事なんだ」と誇らしく話すことがあります。
私たちの仕事は、日常に溶け込んだ「当たり前」を届けることで、誰かの生活を支える大切な役割を果たしています。この仕事には独自の美学があり、その美学を通じて、子どもたちから「お父さんのような仕事をしたい」と思われるような、憧れとなる職業として輝ける日を目指しています。