【一般財団法人 あすなろ会 会長賞】

テーマ:@仕事・職場から学んだこと
人生の伴走者としての誇り
静岡県  青 30歳


 誇り高い仕事って何だろうか。私に何ができるだろうか。ふと、考えるときがある。
 
 私は、そこそこ裕福な家庭の生まれで、何不自由なく過ごしてきた。両親がいて、姉弟がいて、祖父母がいる。帰る場所がないとか、食べるものがないとか、そんな苦難とは無縁の人生を送ってきた。時々、駅の地下街で路上生活者を見かけることはあったけれど、違う世界の人のように感じていた。
 
 大学で社会福祉学を学び、福祉の職に就いた。縁もゆかりもなかった生活困窮者支援の部署に配属されて、初めてホームレス状態の人の対応をした。家がないから住所がない。住所がないから仕事に就けない。仕事に就けないからアパートも借りられない。今の時代は携帯電話を持っていることが当たり前。携帯電話を持っていない人は家を借りられない。求人に応募も出来ない。やり直したくてもやり直せない。今夜泊まる場所も、今日食べるものも、今日着替える服も、何もない。そんな状態で彷徨っている人が実はたくさんいるのだと、知った。そして、そんな人たちに与えられるものを、自分は何も持っていないのだと痛感した。
 
 生活困窮者支援に特化した現場で働きたいと思い、現在のNPO法人への入職を決めた。ホームレス状態の人を保護し、一時的な衣食住を提供し、自立するための手助けをする。ホームレス支援の現場は壮絶だ。日々やってくる相談者たちの状況は多種多様で、ただ「家がない」という問題だけではない。病気を理由に働けない人、多額の借金を背負っている人、家族からのDVを受けている人、40年以上働いたことがない人、前科がある人、隠れた生きづらさを抱えている人。似たような境遇の人はいても、歩んできた人生はみんな違う。それぞれの生きてきた道があって、それぞれの傷と後悔を抱えている。歩んできた人生を丁寧に聞き取り、その人が抱えている「真の課題」を見極める。そして、その課題がなくなるように、もしくは抱えながらも生きていける程度に軽減させることを、相談者と一緒に目指す。
 
 そうは言ったものの、現実はそんなに甘くない。一度どん底に落ちてしまった生活と心を、もう一度立ち上がらせるには支援者の根気と、それ以上に本人のやる気が必要なのだ。もちろん、早期に住まいや仕事を手にしようと必死になる人もいる。しかし、相談者の中には社会の中で生きづらさや人間関係に悩み、傷付き、社会に戻ることを恐れている人も多い。どんなに会話を重ね、求人の紹介や公的な制度を紹介しても、本人が望まなければ前に進むことが出来ないのだ。状態が改善されず、支援者の元を去ってしまう相談者も少なくない。
 そんな時、私は無力さを感じる。どんなに勉強をし、国に認められた資格を得たとしても、どうにも出来ない相談者の心や状況、世間の無理解がある。あの時なんて声をかけるべきだったのか、本当に出来ることは何もなかったのか。「福祉職のあるある」かもしれないが、「正しかったのか」「正しくなかったのか」という疑問に陥る。しかし、その疑問に明確な答えはない。私たち福祉職は出来る限り多くの選択肢を相談者に提示し、相談者が選択出来るように促し、選択したことを実現できるように手伝う。正解・不正解で片づけられるほど単純ではない。その人の人生を守り、未来を創る過程だからだ。難儀な仕事だと、常日頃思う。
 それでも、相談者が支援者と出会い、温かい部屋に案内した時に見せるホッした顔。何日も食べずに過ごし、久しぶりの食事で空腹を満たす姿。そして、新しい居場所を見つけて、笑顔で去っていく背中。そんな場面を目撃するたびに、この仕事の本質に触れる気がする。
 決して華やかではない。輝かしい光があたるわけでもない。目に見える大きな成果を得られるわけでもない。それでも、誰かが立ち上がろうとする時にそばにいられて、新しい門出見守ることが出来るこの仕事を、私は誇りに思っている。

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