【公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞】

テーマ:A私を変えたあの人、あの言葉
アフリカの未来に立つ仕事
近江兄弟社高等学校  小西琉偉 17歳


 「私は将来、誰のために働くべきなのだろうか」。
 高校2年生の春、私は答えを見つけられずにいた。好きなことも、目指す夢もない。家族や先生に将来の夢について尋ねられるたびに、言葉に詰まり、不安と苛立ちが胸に広がった。「働くとは結局、お金のため、自分のためなのではないか」―そんな現実的な考えが頭をよぎっていた。
 
 そんな私に、夏休みにヨーロッパの島国・マルタへ留学する機会が訪れた。表向きの目的は英語の勉強。しかし心の奥では、異国の地で自分と向き合い、本当にやりたいことを見つけたいと願っていた。
 
 マルタに到着すると、ホストファミリーとともに迎えてくれたのは、リビアからの留学生・ハフッドだった。彼は私と同い年で、部屋も学校も同じ。すぐに意気投合し、毎日一緒に登校した。私が驚いたのは、彼の尋常でない勉学への情熱だった。いつも無邪気に笑っている彼だが、勉強になると真剣な眼差しに変わる。学校でも家でも、隙あらば机に向かい勉強している姿をいつも見ていた。「海に行かない?」と誘っても、「ごめん、勉強しなきゃ」と申し訳なさそうに断られることもあった。
 
 ある日、私は思い切って聞いてみた。「どうしてそんなに勉強してるの?」
 少し間を置き、彼は静かに語り始めた。
 「リビアでは内戦が続き、生活は本当に厳しい。僕は故郷を豊かにし、家族の暮らしを良くしたい。そのためには死ぬ気で働くしかないんだ。だから、マルタで少しでも多くを吸収して、将来の仕事に役立てたい。」
 彼によれば、2011年以降の内戦でリビアでは二万人以上が命を落とし、市民の暮らしは今も脅かされているという。彼の言葉の一つ一つが私の胸に深く突き刺さった。同じ年齢で、同じ時間を生きているのに、私は何をしてきたのだろう。平和な国に生まれ、当たり前のように日々を過ごしていた私に、彼の「死ぬ気で働く」という言葉はあまりに重かった。
 
  日本に帰国後も、彼が語ったアフリカの現状が私の心に残っていた。その中で、私は「なぜアフリカは貧しいままなのか」がテーマの留学生交流会に参加した。主催者は、大学生時代にウガンダのNGO「Ashinaga Uganda」で活動していた角田さんだ。
 
 多くの学生とアフリカの貧困について、経済、歴史、政治など多角的な視点で議論を重ねた。リビアの未来を語ったハフッドの強い覚悟が、何度も脳裏をよぎった。
 
 角田さんは、ウガンダでの活動中に撮った写真を見せてくれた。泥だらけになりながら子どもたちと笑い合うその姿に、私は心を打たれた。
 「私たちの活動は、ほんの小さな一歩かもしれないけれど、いつかアフリカの未来を築く子どもたちの力になれたらいいなと思う。」
 角田さんの言葉は、深く胸に刻まれた。
 
 帰宅後、私はすぐにハフッドに連絡を取り、日本とリビアをつなぐオンライン交流会を提案した。テーマは「私たちの平和」。日本とリビアの若者が互いの経験や想いを語り合える場をつくりたいと伝えると、彼は喜んで協力してくれた。
 
 交流会当日、画面越しに映る若者たちは最初こそ緊張していたが、やがて笑顔を交わし、平和への思いを語り合った。言葉や文化は違っても、心はつながる。画面越しに交わされたその瞬間の笑顔は、私にとって忘れられない光景となった。自分の小さな行動が、アフリカの未来にささやかでも貢献できた。そう感じたとき、私は初めて「働く」という言葉の意味を理解できた気がした。
 
 「働くとは何か」。それは、ただお金を稼ぐことではない。「未来を創ること」だ。
 「こうあってほしい」と願う世界に向かって、自らの行動で一歩踏み出すこと。誰かの希望や幸福に手を差し伸べ、その想いを社会へつなげていく営み。それこそが、「働くこと」の本質ではないだろうか。
 
 家族や故郷のために努力するハフッド。アフリカの未来のために力を注ぐ角田さん。二人の思いを受け継ぎ、私も自分にできるかたちで働き続けていきたい。

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