【佳作】
若い頃、多くの仕事を選択できると思っていた。しかも当時は永久雇用と言われた時で、転職の概念 がほとんどなかった。退職して子育てが一段落して働こうと思った時、正規雇用がほとんどないのに驚 いた。アルバイト、フリーターと呼ばれる人が多くいた。正規雇用の枠が決まっており、その枠をめ ぐってイス取りゲームをしている現状であった。正規雇用に採用されないがゆえに、結婚に踏み切れな い、あるいは子どもを産み育てられない、という若者もいた。
当時40歳を過ぎていた私は、正規雇用は「夢のまた夢」と諦め、派遣社員として働き始めた。働きな がら社会福祉士の資格を取得した。行政機関の非正規雇用となり、福祉分野で多くのことを学ぶ機会に 恵まれた。その後も介護支援専門員(ケアマネ)や精神保健福祉士の資格を取得した。そして60歳に なった年、スクールソーシャルワーカーとして働き始めた。初めての学校現場に戸惑うことも多かった が、子どもたちの笑顔に救われた。還暦を迎えた友人たちは、「なぜ今さら」「無謀なチャレンジ」「大丈 夫?」等など、多くの驚きの声に混じって「やるなぁ」の少ない称賛の声もあった。悠々自適な生活を 送る友人を横目で見ながら、慣れない仕事に悪戦苦闘した。
不登校、発達障害、家庭の事情等々、子どもたちは与えられた様々な資質や環境の中で、けなげにそ して逞しく生きている。そんな子どもたちと時間と場所を共有できる喜びに感謝しながら2年が経った。
そして今年の春から、なんと、行政の正規雇用として働くことに決まった。62歳の春である。多くの新 人職員に混じって、62歳の私が、新人研修を受けたのである。スクールソーシャルワーカーのエリア主 任として3人が新規雇用された。あとの2人は40代、期限付きではあるが、正規雇用である。
正規雇用は「夢のまた夢」と諦めていた。まさか還暦を過ぎてから、夢でなくなるとは思ってもいな かった。同級生を始め、周りの人たちが驚いているが、本人の私が一番驚いているのかもしれない。何 が起こるか分からない。いろいろな働き方があるが、自分にあった働き方を追求し、諦めないことが大 切なのかもしれない。
働くことは容易なことではない。スクールソーシャルワーカーとして子どもたちの利益に貢献してい るだろうか、子どもたちの代弁者として働けているだろうか、毎日がその問い掛けの連続で、時には「こ れでよいのだろうか」と立ち止まり、涙することもある。一緒に悩み、一緒に考え込んだ子どもが笑顔 で巣立つことの方が少ない。そのような現実を受け止めながら、小さな一歩でもいい、昨日よりは今日、 今日よりは明日、そしてその前進のための一歩を踏み出せるように、心を砕く日々が続いている。
正規雇用の重圧はあるが、人生の終盤に、よい仕事に出会えたことに感謝をしている。少しでも多く の子どもたちの笑顔を見ることができるように、働けることの喜びを噛み締めながら、一日一日を大切 に過ごしていきたいと思っている。
スクールソーシャルワーカーの仕事は諦めないこと、子どもたちの笑顔が増えることを信じて、決し て諦めないことが大切だと思っている。同じように働くことについても諦めないこと、諦めなければ、良 い働き方に出会えるに違いない。
今、仕事のことで悩んでいる人に「どうか諦めないで」と伝えたい。自分を大事にしながら諦めない でほしい。思いがけないプレゼントがあるかもしれない。
働くことを諦めないで、そして諦めないで働いて。