【佳作】
図書館に20年余り勤めた私の言える「働き方」は、何でもよいから好きな事を労働の中に組み込むこ とである。
図書館での好きな作業は、本を本棚に並べる配架作業であった。返却された本を分類順に並べていく 単純と言えば単純な作業である。本の背表紙に書かれたタイトルを見ているだけで知らず知らずに私の 頬が緩むのが分かる。中身を読まなくても想像を膨らますことができるし、手に取って借り出して、そ のタイトルと著者の思いが分かった時は、いっそうの喜びとなる。
学生の頃から、読書が何よりの好物だった。おかきを食べながら好きな小説にのめり込んで、本の舞 台、描かれている場所、主人公の目線を意識しながら夢中になった。
特に著者の言葉。例えば 「生きていさえすれば良いじゃない」太宰治著『ヴィヨンの妻』 「文明が老衰すれば文化になってしまう。文明が老いて役立たずになった」司馬遼太郎『韃靼疾風録』 「......頭に怯えの石、利己心の要塞を突き破って叩き込まないといけない」『ロード・ジム』
このような言葉の数々が埋まっている本の世界。私はこの言葉好きが高じて、同人誌に雑文を書き、2 年前から俳句の世界に浸っている。
「私は生涯、一体何冊の本を読破できるのだろうか?」と通学電車に揺られながら、また通勤の満員 電車の中で考えたものだ。そして、出した結論が「そうや!本好きの私の働く場所は図書館や」と思っ た。
その為に、それを実現するために、30歳を超えてから、司書の資格を取得すべく、夜間の学校に通っ た。卒業と同時に資格を得て、就職先まで紹介され、大学図書館に勤めるようになった。
図書館の仕事は、ただ本が読めるのでなく、図書館の利用者、学生や教師の要望に応えて本を探し、貸 出す作業がメインである。それでも、留学生の資料探しの手伝いをしていて、直ちに本のある場所に案 内し、喜んでもらえた時は、ほんとうに嬉しい! また、職場で嫌なことがあっても、私は「棚の整理 に行ってきます」と、言って配架整理の作業に没頭していると、不思議なくらい気分が清々してくる。
まだ見ぬ本に出会い「これ、絶対今度借りて読もう」と思うと、わくわくしてくるのが常であった。だ から、私にとっては趣味と実益を兼ねた職場であることは、間違いない。
これから、世間に出て働こうとしている学生諸君に言いたいことは「好きなことは、少々嫌な事があっ ても続けられる」という事である。
スポーツ選手を見るまでもなく、あのような過酷な練習も、好きだからこそ続けられるのである。そ して好きな事は百人十色なのである。ミステリーが好きな人もいれば、紀行文が好きな人がおり、ルポ が好きな人もハウツー本が好きな人もいるように、それぞれがそれぞれの要求に答えて本が存在する。
私の提言は「各自が自分を知り、自分の好きな事見つけなさい」という事である。30歳までに、自分 をという存在を徹底して確立していると、その後の人生は孔子が言うように「40歳の自分の顔に自信が 持てるのでは?」 「まあ、笑って生きていけるのでは?」