【 奨 励 賞 】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
精神障がい者の就労支援についてのジレンマ
福岡県 山 桜 か き 39歳

高校生の頃から違和感を抱き始め周囲の人々を非現実的な存在だと思うようになりました。当然のよ うに孤独に陥り、怒りと悲しみに圧倒される毎日を過ごしてきました。大学に通い始めてから当時の 「精神分裂病」今でいう統合失調症と診断を受けました。脳を揺さぶられるかのような衝撃のため、カ ルテに記載された診断名の文字もはっきりと覚えています。今の私が精神疾患の安易な診断を嘆くよう になったのも仕方がないことでしょう。抗精神病薬の副作用と後遺症で薬剤性パーキンソニズムになり、 精神科の閉鎖病棟入院も経験しました。こうして現在までの約20年間、精神障がい者として生活してき たのです。

対極的に偶然ながらも大学で社会福祉学と巡り会い、社会福祉士の資格を得て、大学院で教育学の修 士号を取りましたが、卒業時はいわゆる就職氷河期世代、精神科に入院などしていた私に正規雇用があ るはずもなく、教育福祉、医療福祉関係で非正規雇用されてきました。32歳の時に専門学校の通信学科 に入学し、精神保健福祉士(PSW)を取得しましたが、今でも自分の職業に満足できていません。

私の経歴についての説明が長くなりましたが、私は「支援される側」と「支援する側」をどちら側か らも経験してきました。それゆえに一般的なPSWや医療・保健・福祉の専門家とはかなり異なった視 点から患者や障がい者のことを捉えてしまいます。医療や福祉専門職にとっての常識が私にとっては必 ずしも常識ではありません。

それを顕著に感じる例として障害福祉サービスに対して懐疑的になっている面が挙げられます。懐疑 的というよりはっきりと反対意見を持っているのですが、声高に自分の意見を表明する勇気はまだない ので「懐疑的」という言葉を選んでしまいました。

私はPSWという立場として、障害福祉サービスの中でも就労支援サービスに携わることが頻繁にあ ります。利用を進めることもたびたびあります。就労支援サービスとは就労移行支援、就労継続支援A 型・B型の3種類を主に指します。「あくまで障がい者は一般就労を目指すものであり、その準備段階と して利用する」という基本原則で成り立っています。就労支援サービスを利用すること自体に反対して いるのではなく、障がい者の選択肢としてこれだけしか用意されていないことにどうしても憤りを感じ てしまうのです。更には障がい者だけではありません。まだ障がい者にはなっていない人々、日本の福 祉制度は申請主義なので本人の同意がないと障がい者にはならないのですが、社会に上手くはまり込ん でおらず、能力的に一般就労できない人々も障がい者の就労支援サービスを受けるべきだと考えられて います。だから私も支援者としてサービス利用を後押しする支援をたびたび実践しています。しかしそ れは他に選択肢がないからでもあり、障害福祉サービスで就労に関する社会問題をすべて解決しようと しているように思えてなりません。そしてサービスの利用が開始されれば、それで問題が解決したかの ように取り扱われます。それ以上の支援は私のような福祉の専門職にとって急に難易度が高くなるので す。福祉だけでは障がい者が望んでいるような就労、ひいては社会生活の実現に結び付けられていませ ん。

この「取り扱われる」という表現は障がい当事者特有の言葉なようです。「被害妄想」という精神医学 的な症状名もあります。私自身はこの被害妄想が原動力になり、自分で自分のことを決めるという当然 のことへの機会と能力を身に着けてきました。

人間の能力は多様性に満ちており、どのような能力が役に立つかを事前に知ることはできません。病 状や社会不適応をネガティブな能力だと決めつけ、枠にはめた支援を施し、可能性を摘み取ることに就 労支援サービスが一役買っている面も頭の片隅に置いてもらえれば、PSW仲間としても嬉しく思います。

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