【 奨 励 賞 】
私たちは「失われた世代」であるとか「ロストジェネレーション」と呼ばれる世代です。辞書を引く と「戦争や貧困、不況などにより行き場のなくなった迷走する若者の総称」とあります。
そんな「失われた世代」も、個々人それぞれに時代を駆け抜けて、今や中核として組織に再編成される べき時がやってきました。バブルと共に終身雇用という幻想も弾け飛び、大学や高校を出て就職し、基 本的にはその会社で定年まで働くという生き方は、単なる選択肢の1つとなりました。
「生き方の多様化」というもののリアリティはずっと増していますが、私たちが二十歳そこそこの頃 から、そういった雰囲気の萌芽はたしかにありました。それを強力に後押しするインターネットが普及 し始めたのも、この頃でした。
私の職場は、「失われた世代」の組織的な空洞化が著しく進んでいて、大変なことになっています。ご 存知の通り、私たちの世代は、多くの人たちが非正規雇用と呼ばれる雇用形態で働いています。私の職場 はおおよそ非正規雇用者が200人近く働いていますが、それを管理するはずの正社員は数名しかいない のです。当然それでは人手が足りず、非正規雇用者を同じ非正規雇用者が管理しています。「リーダー」 であるとか、適当な呼称をつけただけの契約社員が、正社員と同じ権限で管理業務を行いながら、年収 では倍以上も差がつくという現実があります。残念ながら、私の職場では「これではやってられない」 と辞めていく人間が後を絶たず、部門の維持すら難しくなっています。
45歳以上の正社員たちは、待遇面さえ改善すれば離職者が減ると信じています。しかし、私たち「失 われた世代」が “あえて” 組織で働く理由は、実は高待遇を求めて、ではないのではないか。私はそう いう仮説を立てています。
私たちの世代は、特定の拠り所を持たず、己のスキルと知恵のみを頼りに生きてきました。長いとこ ろでも3年やそこらで職場を変えざるを得ない状況がそうさせたのです。
非正規雇用者を多用し、その場しのぎでやってきた会社が、競争に勝てない時代がやってきました。価 値の多様化や、口コミ文化が定着したことにより、本当に良いモノやサービスが売れるようになり、「不 景気だからしょうがない」と逃げ続けてきた企業が淘汰されてきています。一方で新たに台頭してきた 企業もあります。違いはどこにあるのでしょうか。
話を戻しますが、私たちが、1度は拒絶された会社や組織という場所で、“あえて” 働こうとする理 由は何か。それは表面上の高待遇ではないのです。そんなものに頼らなくても、人はそれなりに幸せに やっていけると、私たちの世代は体現しています。「失われた」モノはそんなものではありませんでした。新卒の頃、徹底的に拒否された “会社” と、和解したいと考えているのは、私たちも同じ思いなのです。長い個人戦を生き抜いた己のサバイバル術に敬意を表し、それを吸収し、活かしきってくれる場所を改 めて求めているのです。ある程度の規模感がないと成立しない大きな「ビジネス」への夢をもう1度見 たいからです。
働き方改革、という言葉が流行しています。「失われた世代」を取り込み、利益が上がるようにマネジ メントしなければならない立場の人たちに、これだけは伝えたいのです。私たちは、しぶとく、自立心 が旺盛です。そして、散々求人広告を眺めてまいりましたので、応募する段階で、あなた方が想像する 以上に、あなたの会社のまずい部分を嗅ぎ分けます。しかし、孤独に戦い続ける辛さをどの世代よりも 知っているからこそ、組織のありがたさもまた、身に沁みて理解しています。
互いにとって幸せな出会いを求めています。いまこそ和解しましょう。しかし、それが望むべくもな いことというのであれば、私たちは自ら起業するでしょう。あなた方が取り込めない、もっと若い世代 と共に。