【 奨 励 賞 】
私は昨年、27年越し9回目のチャレンジで国家試験の通訳案内士試験(英語)に合格した。
その話を方々ですると、「よく諦めずに頑張ったね」だけでなく、「なぜそんなに何回も落ち続けても、 またチャレンジしようと思えるの?」と言われる。私にはもう一つかなえたい夢があったから、通訳案 内士になる夢を諦めるわけにはいかなかったのだ。
私が通訳案内士になりたいと思ったきっかけは、毎日会社に行って、同じ人と顔をつきあわせて仕事 をするのがしんどいなとか、ライセンス系は食いっぱぐれないなど恥ずかしながらも不純で、あざとい 動機が大きかったが、さかのぼると大学1年生の時のある出来事がきっかけだったと思う。
今は通年公開の京都御所は当時、春と秋の5日間だけ一般公開されていた。その間、国内外からの観光 客が押し寄せ、京都御苑のお土産屋さんで一日、学生アルバイトの募集があり、働くことになった。外 国人観光客の方々に慣れない英語で話しかけ、四苦八苦しながら接客していると、服装からして東南ア ジアから来られた中年の女性が突然、「 For You」と言って、赤いエスニック調のきれいなハンカチを 差し出してくれた。なぜ彼女が私に突然ハンカチをプレゼントしてくれたのかわからない。おそらく拙 いながらも一生懸命になって英語でコミュニケーションを取る姿をいじらしく思ってくれたのだろう。
それから私は駅などで困っている外国人観光客を見つけたら、英語で話しかけ、道案内をするように なった。案内しながら、外国人観光客の方々に「なぜ日本を旅先に選ばれたのですか?」など尋ねると、 「日本人は親切だし、日本は美しいし、食べ物も美味しいし、ユニークだから」という答えが返ってく ることが多かった。数多くの国の中からわざわざ日本を選んでくれたことが嬉しかった。もっと日本を 知ってもらいたい、好きになってほしいという気持ちが強まった。
通訳案内士試験合格後、研修を重ね、今年3月末にプロガイドとしてデビューした。経験不足のため、 反省点は多々あったが、お客様に「あなたのような優しい人にガイドしてもらってよかったわ」と言って もらえて、感激した。経験はこれから積んでいけば良い。人間性を褒められることほどありがたく、嬉 しいことはない。
私にはガイドの仕事を通じて、もう一つかなえたい夢がある。それはインバウンドで日本経済を活性 化させて、潤った財源を現代の若者たちのために使ってほしいこと。いつの時代でも家庭の経済的事情 で学びたくても進学を諦めざるを得ない人たちがいる。そのような若者たちに進学を諦めてほしくない し、安心して勉学に励んでもらいたいのだ。
私はこの仕事において、とことん貪欲でありたい。通訳案内士になる夢をかなえた後は、通訳案内士 としての夢をかなえたい。その夢とは一石三鳥、Win Win Winだ。自分の夢が現代の若者たちの夢や 社会の夢をかなえることに繋がればいいなと切に願っている。