【 奨 励 賞 】
私は今春、長年勤めた会社を定年退職した。そして、人生百年時代と言われる中、新たに仕事を探し、 チャレンジすることにした。そんな経験をした者から、若い皆さんへのアドバイスだ。やっかいな先輩 だと思われないように、できるだけ短時間で話を終えるので、よろしくお願いしたい。
ひとつの会社で勤め上げて、その業界に対する知見や作法を身に付け、スペシャリストとして前半を 終えたときは、充実した社会人生活だったと感じていた。「社会人」というよりも、「会社人」傾向が強 かったことは、反省点ではあるが、日々やりがいを感じて仕事をしてきた。ただ、退職して新たな仕事 を探し始めてつくづく実感するのは、同じ仕事コミュニティの中だけにいたので、幅広さがないことだ。
縦軸を仕事への深さ、横軸を仕事の幅広さで表した場合、ひとつの仕事に没頭した「I型」だったわけで あるが、ゼネラリストの「T型」(ないし「逆T型」)や、二刀流を標榜する「H型」などとは違い、専 門バカで終わったともいえる。しかしどうだろう。スーパースターならいざ知らず、一般人では、何事 も深くすれば深くするだけ幅広さは失われるし、幅を広げれば広げただけ、浅くなるものではないか。
新しい仕事のコミュニティに入ると、今まで見えていた景色も変わってくる。具体的には、企業論理だ けでなく公共の立場から考えるとか、違う業界からの視点、などがあげられる。私は、今回新たにチャ レンジした仕事を通じて、社会や世界を見る幅が、確実に広くなり、多くのことが見えてきたと感じて いる。従って、広さを持つことも重要である。ただこの体験が、前の仕事で見えていたら、もっと太い 「I」ができていただろうか?きっと、忙しさにかまけて、まともに受け止められなかっただろう。やは り、人は大きなショックがないと、そうそう変われないものである。そこで、軽い気持ちで仕事の幅が 広がる「K型」人間を提案したい。
「K型」の定義は、本業をしっかり持ちつつ、軽く斜に構えて副業を備え持つ、ちょうどまっすぐな 線から枝分かれしていくKの形をイメージしている。ひとつのことに、のめりこみ過ぎない分、新しい アイディアの創出につながりやすくなる。ゼネラリストの「T型」のようなしっかりした自分の得意分 野を持つことは、まず重要だ。2つの本業を持つ「H型」を目指すことも悪いことではない。ただ、こ れらは道が険しい。それならば本業を持ちながら、副業を主業と絡ませて斜に構えて持つ「K型」こそ、 新しいポリバレントな働き方ではないか。
同じパワーで2つの仕事を持つと、相反した場合、悩みが深くなるだけである、従って、本業は持ち つつ、真面目すぎない程度の副業を併せ持つ。その副業が本業と違う位置から出発し、クロスして絡む ことによって、シナジー効果も生み出すのが、「K型」の特性である。またもし、本業をリタイアした場 合も、次の仕事は副業からスタートすればいい。その観点では、セカンドライフの補完機能にもつなが る。まじめすぎない肩の力を抜いて取り組むため、だれにでもチャレンジが容易だ。
これからの日本は、少子化で生産労働人口の少なくなる中、もっとも大切なのは生産性向上であると 考える。新しい働き方の担い手として、「K型」人間を目指してほしい。