【 奨 励 賞 】
「匂い袋って、ベタベタした香りで、嫌なんです。私は、作りたくありませんので、見ていますね」 友人3人とお手軽匂い袋づくり体験にいらしたシニアの女性。お土産にもらった匂い袋の香りが苦手と いうこと。店内に入ることも、最初は躊躇(ちゅうちょ)したという。
「この店では人工香料は使わず、天然香原料を使って作るため、多分そのような香りにはならないと 思いますよ」サンプルの香りを嗅いでいただきながら、丁寧(ていねい)に説明していく。
「この香りなら大丈夫かも?試しに、参加してみます」恐るおそる白檀(びゃくだん)、龍脳(りゅうのう)、丁子(ちょうじ)といった香原料 の香りを確かめながら、調合を始める。もちろん、その方を誘った他の3人も夢中になって調合に向か う。そして、もう少しすっきりめにしたい、私はもう少し軽い甘めの香りを目指したいと、それぞれの 希望が出てくる。それらに対応して、やっと香りの調合が終わる。
すると、匂い袋に拒否反応を示していた方から意外な一言。
「この匂い袋は、とてもいい香りだし、普段から身に付けておきたいわ。今までの匂い袋への概念が、変 わってしまったわ」
じつは、このような参加者が多く、驚かされることがしばしばである。香料で嗅覚(きゅうかく)や味覚までごまか されることが多い現代。天然の原料しか使ってはいけないということではなく、本物を知ることが、自 分の身を守る第一歩であることを分かってほしいと思っている。
天然香原料を使ったお香調合、水引をはじめとする結び、そして合組(ごうぐみ)と呼ばれるブレンドしない品種 煎茶だけを取り扱い、本物を追求する姿勢を崩さない店づくりをしていきたいと考え、3年前に和の店 をオープンした。
現代では世代とは関係なしに、本物が分からなくなってきた人々が増え、物事の本質を知らないこと が多くあり、驚かされることがしばしばある。
そのため、長い時間を必要とするかもしれないけれど、本物を目指すということが、地域を活性化さ せる一番の道ではないだろうか。
日本人はもちろんのこと、インバウンドにも人気のある国内の観光地を見てみると、歴史が感じられ、 奥深い文化が残されたところが挙げられる。
例えば合掌家屋で知られる白川郷は、200年、300年前に作られた茅葺きの家屋の立ち並ぶ山間の集落 である。そこに年間200万人近い観光客が訪れる。それは特異な造りや日本の農村の原風景と共に、自然 と共生しながら、長い間生きてきた白川郷の生き方に触れたいためだろう。
このようなテーマパークを新しく作っても、顧(かえり)みられないと思われる。そこには本物がないため、奥 深さが感じられないためだ。
そのように、本物を目指すことが、地域活性化に必要なことだと思っている。3年先、5年先を考え た地域活性化、またもっと50年、100年先を見据えた地域づくりが重要だと思われる。
同じように、働くということを考えても、本物志向の企業で働くことをお勧めしたい。本物を目指す企業であれば、時間はかかるかもしれないが、光りは見えてくるはずだ。小手先だけでごまかそうとす れば、自ずとその手法や考え方が身に付いてしまい、気づいた時には、うわべだけ取り繕(つくろ)う手法や考え 方から抜け出せず、取り返しのつかないことになりかねない。
若いうちから本物に触れ、何が本物かを見抜く力を養い、自分が本物に向かって進んでいける職場を 選ぶことが大切ではないだろうか。