【 入選 】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
与えられた仕事に自信と誇りを
早稲田佐賀高等学校 谷 川 旦 誼 17歳

最初から好きな仕事をしている人はどのくらいいるだろうか。大半の人は、自分の思い描いた仕事に就いていないだろう。嫌々家業を継ぐ人、就職活動に失敗し希望の職種に就けなかった人、倒産による転職、リストラによる再就職など思い描いた職業とは大きく異なる職種に従事している人も多いと思う。

しかし、スタートラインはどうであったにせよ、多くの人々は仕事に真剣に取り組み、少しでも業績を上げ、よい物を作ろうと努力している。働き続けることで、仕事に価値を見いだしているのだ。

ニートやフリーターと呼ばれる若者は、労働の対価として給与を得ることだけを目的にしているのではないか。マニュアルに沿って仕事をこなし、決まった時間労働を提供することによって対価を得る。まったくとは言わないが、高度な技術や特殊な能力が発揮されているとは思えない。マニュアルということは、個人の創意工夫や向上心を必要としない。すなわち、熟練もしなければ、仕事の達成感も得ることはできないだろう。

もちろん、仕事をする上でマニュアルが存在するものは多い。おそらく、機械や電気の製造業もそうであろう。しかし、前述したニート等と異なり、そこには熟練工が存在する。ラインに沿った流れ作業 であれ、機械でも見落とすほどの瑕疵を見逃さない。長年培った技術と誇りが存在しているからだ。思い望んだ職に就けなくとも、仕事に対しての価値観や誇りを持つことができれば、人は自分の就いた職を極めて達成感を得るものだと思う。

精密部品製造において最後の研磨作業は、機械では無く熟練工の手仕事だと聞いたことがある。機械の精度より熟練工の指先の感覚が上回っているのだ。この話を聞いたとき驚きと感動を覚えた。同時に、この職人さんははじめからその職業を選択したのだろうかとも考えた。与えられた仕事を地道に繰り返し行うことにより、技術を高め最後は機械の精度をも上回ったのだと思う。これこそ、仕事を継続したことで得た、職業人の自信と誇りの賜だと思う。

「わずか従業員35人の町工場が製作した部品が国際宇宙ステーションに採用」今年の1月新聞紙面を飾った見出しだ。精密切削加工に絶対的自信を持っていたから成し遂げた結果だ。また、寸法誤差0.015 mmの精度で作り上げるへら絞りの技術もロケット先端の部品製作に利用されている。へらをあてたときに手に伝わる感覚だけで正確な厚さ判断するのだ。これらは、一つの作業に長時間従事し極めた姿である。

熟練し誇りを持って仕事をしているのは職人だけでは無い。接客、営業、教育現場すべての場面で、その道を極めた専門家が存在する。科学技術が急速に進みAIがもてはやされ、今に多くの仕事を機械や 人工知能に取って代わられるような報道もよくされている。しかし、マンパワーの力を覆すことは不可能だと思う。人に無限の知恵と、努力、そして仕事に関する達成感と誇りがある限り主導権を握り続けるはずだ。

希望の職種に就けたかどうかに関係なく、仕事を極め、その仕事に価値を見出せば、人はその仕事を 天職だと認識し、誇りを持ち、さらに高みを極めるだろう。それが働くことだろう。

私は、現在、医師を目指している。日々の精進で卓越した技術の習得が不可欠である。同時に、医療ロ ボットにはできない、患者様に寄り添い、共に病に立ち向かう心も培う必要もある。そして、患者様や 家族から信頼されるプロとなり、自分の技術に自信と誇りを持って医療に携わりたいと考えている。し かし、医師になるには、難関学部、その後の国家試験に合格して初めてスタートラインに立つことがで きる。言い換えると、いくつもの高いハードルを越える必要があるのだ。私の実力では、スタートライ ンに立つことができないかもわからない。しかし、患者様の心に寄り添い共に病に立ち向かう職種には 就きたい。そして、与えられた道を極め、患者様に尽くしたいと考えている。

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