【 入選 】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
制度づくりで満足せず、生かす取り組みを
東京都 S・S 35歳

妻が出産を機に、13年間勤めた会社を辞めた。

妻は自分の仕事に愛着があった。

しかし、そんな妻がどうして、会社を辞めたのか。

それは彼女の会社が「子育て中の社員のサポート」においてまだ万全な体制ができていなかったから だ。妻の会社は小さな会社で、妻は一人で事務全般を任されていた。その上彼女は上司からの信頼も厚 く社長にも大変可愛がられていた。そのため妻が妊娠した時、社長は真っ先に「子育てママを応援する」 と働き方の一つの選択肢として「時短勤務」を会社で初めて適用した。

「時短勤務」はご存知の方も多いが「短時間勤務制度」の略であり、一日の労働時間を原則6時間と 規定できる勤務体制のことをいう。そのため早く帰社ができ、妻は保育園の迎えや、17時に閉まってし まう公共施設等にも余裕をもって行くことができる。

私は「時短勤務」は、子育てと仕事を両立したい妻にとって非常に良い制度だと考えていた。しかし 妻はもう一方で異なる考えを持っていた。

自分ではなく会社の立場を考えた時、時短勤務で自分が抜けた穴を会社がどのように埋めるのかにつ いて真剣に悩んでいたのだ。

「家庭を優先」するより「会社を優先」することに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれない。し かし現実問題、妻は時短勤務を適用している取引先とのやりとりを通じて、「時短勤務」に不便さを感じ ていた一人でもあったのだ。

妻は以前こんなことを言っていた。

「今日中にやらなければいけない仕事の処理が出来ていないことがあり、取引先の担当者に電話したら、担当者は退社しましたって最近よく言われるの。時短勤務もいいけど、時間内にできない仕事があ るなら、引き継ぐ人を準備するとか会社が体制をきちんと整えてあげないと」と。

彼女曰く「時短勤務はいいことだ」そして「子育てママにも罪はない」また「時短勤務できちんと今 日すべき仕事が終えることができるなら、時短勤務は大いに賛成である」

しかし「今日やるべき仕事の処理ができない人を時短勤務にさせ、しなければならない仕事を放置し ているのだとしたらならば、その部分は会社がきちん対処していかなければならないはずだ」なぜなら 「その会社に関わっている他の会社には罪はないのだから」と。

私は妻の話は一理あると思った。時短勤務制度がうまく生かせてないのに、会社が制度を取り入れて いることだけで安心しているのなら、それはそれで子育て中の女性がますます働きにくくなる環境を増 進しているだけのようにも思える。

「子育てママの為に制度をつくりました」を全面に押し出すのではなく「その制度をこのように活用し て、会社はこのような協力体制を準備しています」という「制度を生かす具体的な取り組み」こそ、こ れから準備していかなければならない重要な課題なのではないだろうか。私は社員ひとりひとりが状況 に応じた個々の働き方をイメージし共有していく職場環境が今求められているのだと思う。

会社が体制整備を行う努力を行わなければ、その制度を利用した社員が働きづらい職場になってしま う。

妻は制度を生かそうとしてくれた会社に感謝したものの、今の状況では会社はその制度を生かしきれ ないと判断し、会社を辞めることにした。

妻は職場を大切に思っていたがゆえに、会社にも、自分が担当している取引先にも迷惑をかけたくな かったのだ。

きっと妻のような女性も少なからず存在するのではないだろうか。

さまざまな働き方をというのは、単に会社に取り入れるだけでは働きやすい環境にはならない。社員 同士がお互いの違いを知り、理解する「社員同士の共生」も必要不可欠なのだ。私は社員ひとりひとり が持っている個性と能力を発揮するために、個々の働き方を尊重することこそ会社が発展し、ひいては 社会に貢献できる力となると考える。私も今の状況に甘んじず、今後、妻がより幸せな働き方ができる よう共に考えていこうと思う。

戻る