【佳作】
「先生」という職業を持つ人には、昔から尊敬の念を抱いている。人に何かを伝えたくて仕事をして いる人は私にとってとても輝いて見えるのだ。その中でも私が一番親しみ、憧れている先生について書 こうと思う。
私が小学4年生の頃、私のクラスには所謂問題児が数名いて、他クラスと比べるとかなり騒がしいク ラスだった。しかし不思議なことに目立った問題を起こすこともなく、それどころか年度末のお別れ会 で別れを惜しんで泣いてしまう人が続出するほどのクラスになった。これは全て担任の早川先生のおか げであった。
私達の担任だった早川先生は、いつでも私達に夢を与えてくれた。どんな授業も私達の関心を引く内 容ばかりで、今までのつまらない授業の概念が覆った感覚をよく覚えている。また、皆で協力して授業 を早く終わらせることができた日にはこっそり屋上を解放してくれたり、学期末のお別れ会やお楽しみ 会では私達のクラスだけ2日間開催してくれたり、楽しい思い出を沢山プレゼントしてくれた。
そんな早川先生はよく「『夢』を持とう」と言った。それは必ずしも将来の夢でないといけない訳では なく、どんな些細なことでも良いのだと言う。4年生の頃の私はよく小説を書いていたが、特別小説家 になりたいこともなく、将来に関してほとんど見当が付いていなかった。なので将来の夢に関する質問 は少し怖かったし、嫌いだった。しかし先生の言葉はそんな私を楽にしてくれた。
「将来の夢はまだ分からないけど、文章を書くのが好きです。」
と胸を張って言えるようになった。
そして年度が変わり私達は進級し、早川先生ともクラスメイトともばらばらになった。5年生になっ て少し経ったある日、3年生の担任を持っていた早川先生が授業中に倒れてしまったという話を聞いた。原因は詳しく教えてもらうことはできなかったが、極度の疲労とだけ聞かされ、心配でいてもたってもいられなくなり、私はそれから毎日職員室に先生を探しに行った。しかし先生は当分学校に来ないと言 われ、年賀状の住所を頼りに手紙を出してみようと決めた。そこで元クラスメイトに一人一枚手紙を書 いてほしいと呼びかけた。すると驚いたことにクラス全員からの手紙がその日中に私の手元に集まった。その中で、一番の問題児であった友人の手紙に私は強く胸を打たれた。
「先生が元気になるのを待ってます。」
彼のいつも通りふざけた文章の最後の行にこんなことが書かれていた。彼からこんなにも素直な言葉 が出たのを私はその時初めて見た。早く先生に見てもらいたい、強くそう思った。
そして数日後、先生からの返事はすぐに返ってきた。安心したのと同時に、その内容にとても驚かさ れた。そこにはクラスメイト一人一人に宛てた手紙が入っていた。この時の感動は今でもはっきりと思 い出せる。
私はこの経験を通して、こんなにも人から親しまれ愛される先生は本当に素晴らしい人だなと心から 思った。早川先生の「先生」という仕事に対する姿勢は誠実で決して飾らず私達と同じ視線でいつも一 緒に居てくれた。私は先生のような働き方ができる大人になりたいと先生と出会った時から今までずっ と思っている。
先生が書いた皆への手紙の中の私宛のものには、こう書いてあった。
「楓ちゃんは好きなことを追いかけていつまでもキラキラしていてね。」
私は今、編集者になるという夢を見つけ、それに向かって毎日勉強の日々を送っている。この今の私 が、先生にとっての「キラキラ」であったらいいなと私は信じて明日も明後日も精一杯に生きようと思 う。