【佳作】
人に楽しさを伝えたい。私自身も楽しんで仕事をやりたい。
就職活動で「あなたが軸として持っているものは何ですか?」と聞かれたときに、必ず答えていた言 葉である。人に楽しさを伝えたいのは、私が出版業界を目指していたから。本を通じて、楽しさを人に 伝えたいと考えていた。結局私が就職を決めたのは教科書出版会社だったが、それでも、教科書を通し て、読む人に勉強の楽しさを伝えたいというのは変わらない。しかし、私が最も大切にしていたことは、 人に楽しさを伝えることよりも、私が楽しく仕事をしたいということだ。
小学校5年生の時、担任教師から次のようなことを言われた。「働くってのはな、本来は楽しいものな んだよ。昔を考えてみろ。昔の人はコメ作って畑いじって、楽しく働いていたじゃないか。だからお前 らも、楽しんで働けよ。」この言葉が、10年経った今もなお、私の中に棲みついている。私の周りの労働 者は、果たして楽しく働いているのだろうか。親は帰って来ては仕事の愚痴。教師になった先輩は久し ぶりに会ってみると生徒の愚痴。バイト戦士の友人はマナーの悪い客の愚痴。おそらく、日本中の多く の人は働くことと楽しむことをイコールで結べないだろう。「自分の好きなことは仕事にするな。趣味の 延長を仕事にするな」よく耳にするこの言葉から、仕事は楽しんではいけないという念がひしひしと伝 わってくる。
もちろん、辛い仕事や苦しい仕事というのはあるだろう。それでいて、誰かがやらなくては社会が成立 しないという仕事はあるだろう。だからといって、仕事は辛いもの、苦しいもの、本来はやりたくない ものとする風潮は私は嫌いだ。そのような社会は間違っていると糾弾してもいい。なぜその仕事に、楽 しさを見出そうとしないのか。辛いもの、苦しいものとみなしてしまうのか。辛いものと感じて仕事を やっても、うまくいくはずない。もっと前向きに、この仕事はここが楽しいと語ってくれ。この仕事の ここが魅力なんだと語ってくれ。その楽しい部分、魅力的な部分に魅かれて、若者は仕事を探すのだか ら。あなた自身がその仕事の楽しさを分かっていないと、その仕事の楽しさを人に伝えられないのだか ら。
仕事は辛いものかもしれない。しかし、その中にも楽しさを見つけ、楽しんで仕事をやるという心意 気が、今の社会に必要なのではないか。そしてその心意気が、これから社会を変えていくのではないか。私は強くそう思うし、そのような楽しむ心をもって、これから仕事をしていきたい。