【佳作】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
若者の声を「採用する」政府に
〜「自分ごと化」で進める働き方改革〜
東京医科歯科大学 医学科 谷 本 英理子 25歳

今年5月末、働き方改革関連法案が衆議院本会議で可決された。しかし、私は今、その「働き方改革」 から最も縁遠いと言われる職を志している。医師である。

医療技術の進歩や超高齢化に伴う患者ニーズの多様化は、医師の心身の負担を増幅させる。残念なが ら、過労で自殺する医師も出ている。同時に周囲の若手医師からよく聞くのが「勉強する時間がない」 という焦りの声。生涯絶えず医療の知識を身に付けなければならない医師だが、日常業務に追われるう ちにその更新が滞れば、提供される医療行為の質は下がる一方だ。

このような事態を受け、厚生労働省は、医師の労働時間の上限を設けようとしている1)。一方、「一人 でも多くの患者を救いたい」と生きがいを持って時間外の対応も買って出る医師も実は少なくない。医 師という職の特殊性を鑑みると、画一的に残業時間の上限を設けるという策は、患者対応の柔軟性を奪 うという点で現実的ではない。現場で「働きすぎ」の医師がいるのか否かなどを見極め、柔軟に対応す るシステム作りが求められるのではないか。


このような、政策を考える政府側と実際の医療現場側との「医師の働き方」に対する認識のずれは、現 在医学部に通い、病院実習に励む中で、学生の私にすら感じられる。しかし、たとえ何かを変えたくと も、早朝から深夜まで病院で日常業務に追われる医師?特に現場の方針決定に直接関わることのない若 手医師?にその気力や機会が生じることはない。「政府が働き方改革とかやっているけれど、病院は例外 でしょ」とつぶやくので精一杯だ。自分の職に関わる変革がもはや「他人ごと」と化している。


医療現場に限らず、多くの組織で20代、30代の若者が現場の主戦力として奔走している。その中で、駆 け出しとして自己研鑽に励む立場ならではのジレンマもある。現場に最も近い若者こそ、積極的に組織 の方針決定に関わるべきだと私は考える。


今年4月、私はカナダ・オタワに、僭越にも「日本代表」という肩書きを背負い降り立った。そこで 開催されたのが、Y7(Youth 7)サミットである。Y7サミットとは、G7サミットの公式会議の一 つとして、各国から30歳以下の代表団を募り開催される青年国際会議である。共同声明文をまとめ、実 際のG7首脳会談に政策提案として提出するのがY7のミッションだ。

同世代の各国代表団に印象的だったのは、やはり国際問題を「他人ごと」ではなく「自分ごと」とし て取り組む主体性を全員が持っていたことだった。会議の合間には、カナダのトルドー首相夫人をはじ め政府関係の有識者との議論、更には国会議事堂などの政府機関の訪問まで、分刻みでイベントが設け られている。また今年は、Y7サミットの提言が、G7首脳陣によって討論されるだけでなく、G7の 最終文書に必ず掲載されることになった。若者に求められた、この高いコミットメントこそが「自分ご と化」の重要な鍵だった。


未来を作り手である若者の声が積極的に還元される社会。現場で声を上げることももちろん大切だが、 その現場の動きを上流で操るのが国の規制である。現場レベルから政府レベルまで若者が介入すること で様々な変革がもたらされるのではないか。

高い柔軟性や情報への感度を備えた若者は、政府レベルの議論において意義深い存在となる。Y7で は、働き方改革に関して「ジェンダー平等」といった抽象的なゴール設定ではなく、「政府は各企業に男 女間の収入格差の有無などの報告義務を課す」といった「ゴールへの手段」に焦点が当てられる。若者だからこそ打ち出せる、大胆かつ具体的な提言である。


日本では先日、成人年齢を18歳に引き下げる法改正も可決されたばかりとあり、若者の社会的存在意 義を見直す時が来ているのかもしれない。Y7サミットのように、若者主体のハイレベルな意志決定の 場を作ることで、働き方の「自分ごと化」が進められる。これこそ職場を、ひいては社会を変える原動 力になるのではないか。

 

<参考文献>

1)厚生労働省, 医師の働き方改革に関する検討会,

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_469190.html (最終閲覧日:2018/07/18)

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