【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
かっこいいと気づいた日
浜松市立高等学校 山 田 遥 葵 18歳

「すみません、すみません。」

そう言って携帯電話を耳に当て、回線の向こうの見えない相手に何度も頭を下げる大人を見て、こんな大人になりたくないと、小さい私は思っていた。何をそんなに謝っているのか、どうして見えないの にぺこぺこ頭を下げているのか。かっこ悪い。小さい頃、そうして私は父に聞いてみた。そしたら父は 少し笑って「それが仕事だからだよ。」と。そんなことが仕事なら仕事になんてつきたくない、と思いな がら私はただ一言、「ふーん。」と返した。

中学二年生の頃、学校で職業体験があった。そのときは小さい頃の仕事への考えが全く変わっておらず、正直、面倒だと思っていた。これといって興味のなかった私は本が好き、ただそれだけの理由で本 屋に行くことになった。期間は2日間。そこで、私の仕事への考えることが起こったのだ。

家の近くの本屋より大きいその店に入ったとき、私は一種の高揚感を覚えた。それはこれからの仕事への期待ではなく、本好きの人間が本がたくさんある場所へ入ったことへの興奮であったと思うが。中学生の私に仕事を教えてくれるサポート役は、若い女の人だった。明るい笑顔で多少なりとも緊張して いた体の力が抜けたのを覚えている。仕事を教えてもらい、実際にやって、休憩時間も楽しく話して1 日目はとても充実したものだった。事が起こったのは2日目。そのとき私は、水分補給に、とお茶を もっていてあろうことかそれを売り物の本にぶちまけてしまったのだ。実際かかったのは3、4冊だっ たけど私は頭が真っ白になって動けないでいた。そんな私のところにお姉さんは来て、大丈夫と言って すばやく片づけてくれた。その後、もちろん私はお姉さんや店長さんにも謝ったけれど2人ともそこま で私を責めることはなく、私は早く解放された。そのときはそんなに大変なことではなかったのかなと 思ったけれど、私が昼休憩のとき、お姉さんが店長さんに私のことで頭を下げて謝っているのをたまた ま見てやっぱり大変なことだったのだと思い知った。体験が終わるとき、私は思い切ってお姉さんにき いてみた。どうして私のことなのにあんなに謝ったのか、と。お姉さんは少し呆気にとられてたが笑っ て言った。「それが仕事だからだよ。」

謝っているのは自分のミスのせいだけではない。時には自分ではない誰かのために、必死に頭を下げ て謝っている。私のために謝っていたお姉さんのように。小さい頃にきいたお父さんも、職業体験のお姉 さんも謝るのは仕事だと言った。小さい頃は、そんなことが仕事ならつきたくないと思っていたが、実 際身近に体験してその意味を理解した今、私はかっこ悪いとは思わない。必死に謝る。その奥に見えな い何かをもっているのならこれほどかっこ良いものはない。

今日も私は街を歩く。そうすると聞こえてくる「すみません。」という言葉と頭を下げる人の姿。私は それを見て、そして思うのだ。こんなかっこ良い仕事につきたいな、と。

戻る