【 奨 励 賞 】
私の祖母はとても働き者だ。
父の実家である秋田の祖母の家に遊びに行けば、「よく来たなぁ。」と顔を綻ばせて出迎えてくれる。
どんなに寒い日でも私よりうんと早起きして、畑から採ってきたばかりの野菜を朝ごはんに出して食 べさせてくれる。
掃除をして、ご飯を作って、お風呂を沸かして、布団を敷いて...私たちのために頑張ってやっている 風ではなく、ほんとうに、そうすることが自分にとって当たり前であるかのように働く。
踊りの師範をしている祖母は、日中は家にやってくる生徒さんに稽古をつけている。
稽古が終われば、今度は自分の踊りを夜中まで練習する。
そんな祖母がおととしの冬、足を悪くして入院した。
駆け付けた私の姿を見て祖母は嬉しそうにしたが、大好きな踊りが出来ない状況で、いつもより、ひと回りもふた回りも小さくなって見えた祖母の姿が目に焼き付いて、私はいたたまれない気持ちになった。
その後、無事退院し、リハビリを経た後、祖母は復帰のコンサートを開催することになった。
恥ずかしいことに、私はそれまで一度も祖母が踊っている姿を見たことがなかった。
私は祖母に一度だけ、どうして踊りを続けるのか聞いたことがある。
祖母はゆっくり息をついてから、 「私から踊りをとったら、何も残らないからねぇ。」
と、そう言った。
気の遠くなるくらい長い時間、踊りと向き合い続けてきた祖母にとって、踊ることは息をすることと 同じくらい、精神的にも経済的にも生きることと密接であるように思えた。
だから、復帰のコンサートで初めて祖母の踊っている姿を目にした時、あの言葉とともに祖母の踊り に対する真っすぐさや、そこに懸けてきた想いみたいなものが伝わってきて、生まれて初めて心が震え るような感じがした。
私はこれから社会に出て「働くこと」と向き合っていくことになるけれど、あの日踊る祖母から感じ た、自分の仕事に対する真摯さや情熱をちゃんと受け継いでいきたいと思うし、自分の納得のいくよう な働き方を見つけた時は、真っ先に祖母に報告しに行こうと思う。