【 奨 励 賞 】

【テーマ:さまざまな働き方をめぐる、わたしの提言】
「楽すること」が良いと言える世の中へ
茨城県 倉 持 翔 太 26歳

仕事とは何か、そんなことを考え始めてから数年、まさか自分が企業の人事部長になるとは思っても みなかった。見られる側から見る側へ、優越感のような何とも言えないちっぽけな自分が誕生した。だ がやはりちっぽけであることに変わりなかったと無職になった今そう強く感じる。

 

高校生までは誰かの言う通り生きてきた。だがそんな生き方に違和感を持ち始め、何かがはじけ飛ん だ瞬間、私は大学を中退し1年間ニートと呼ばれる状態に突入した。ニートというとどんな姿を想像す るだろうか。当時の私はニートと言えば、暗い部屋に引きこもり誰とも会わず暗い雰囲気を身にまとっ た姿を想像していた。だが実際は違った。普通に起きて、食べて、遊んで、寝るだけの学生時代と変わ りない生活であった。そしてこれは企業の人事担当となり、採用面接という形で出会った数百人の方々 (会社の特性により面接に来る方の8割は無職やニート、フリーターと呼ばれる方々であった)の生活と大差がなかった。これは「働くこと」への理解を深めることに大いに役立つ経験となった。

 

さて前置きが長くなったが、ここから今回のテーマについて書いていこうと思う。まず結論を述べる ならば「働くこと」だけに固執することを如何にしてやめていくかが今後の課題になるのではないかと 考えている。現代日本においては「楽すること」への価値が急速に高まりつつあるように感じている。分かりやすい例でいくとAIやロボット、SNSなどがそれに当てはまるだろう。そんな現代日本にお いて過去美徳とされていた働き方というもの自体が合わなくなってきており「働くこと」と「楽するこ と」との間に挟まれ苦しんでいるのが私達の世代なのではないか。そして今日の日本においては「働く こと」が善であり「楽をすること」が悪であるかのように見えてしまうのもその苦しみの一因となって いるのではないだろうか。

ここでロボットを例にしてみたいと思う。雇用の場においてはロボットやAIに仕事を奪われるというネガティブな意見が多い。単純作業などは雇用の喪失につながるという。ただこれは「働くこと」の 視点であることに注目をしたい。これを「楽すること」の視点でみてみると、単純作業をやる必要がな くなりクリエイティブな作業や自身のプライベートの時間に充てられるという良い面が見えてくる。そ してこれは日本の抱える過労などの社会問題の解決にも繋がる。だが私の見えている範囲に限って言え ば、ロボットが導入される未来について悲観的な意見や見方、そもそも未来について興味を示していな い人が多いように感じる。働き方を改善しろ、給与をあげろなどと国や会社に言いながらも「働くこと」 に固執し「楽すること」に目を向けないばかりか、それを否定するような生き方をしている。そしてそ んな生き方が今後ますます自分の首を絞めていく世の中になっていくのではないだろうか。成熟した世 の中においては、「働くこと」だけの価値が薄れていくことは歴史が証明しているし、今日の日本が成熟 していることは明白である。誤解を恐れずに言うならば、先人が働き築いてきたこの成熟した日本を享 受し、そこから新たな文化やテクノロジーを生み出していくことが私たちの世代の大きな役割であると 感じている。そしてそれは「働くこと」だけではなく「楽すること」から導き出されるものでもあると 強く信じている。

 

現在私は田舎の一軒家でその日暮らしの生き方をしている。「働くこと」に固執していた際は肩書が ついただけで浮ついていた自分ではあるが、今は肩書ではない満足を得られるよう日々を過ごしている。だが本当の意味で「働くこと」をやめたわけではない。今もこうして何かを発信し続けているのは「働 くこと」であり「楽すること」とのバランス感覚を養う作業でもある。これがいつどんな形で花開くか はわからないが、もうしばらくはこの生活を続けようと思う。

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