【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事を通じて、こんな夢をかなえたい】
刑務仕事
長野県 岩 越 正 剛 35歳

「お前がこれからするのは、仕事/だ。呉々も、仕事/と作業/を履き違えるなよッ!」

新社会人、初日。教育係として私に就いてくれた先輩の第一声が、この言葉だった。

●仕事 する事。しなくてはならない事。特に、職業・業務を指す。

●作業 肉体や頭脳を働かせて仕事をする事。また、その仕事。(広辞苑より)

語意自体に大差は無さそうなこの二つの単語に先輩が込めてくれた想いを、当時の私は右から左に聞 き流していたのだが......十余年経った今、故あって私は先輩のあの言葉の意味を、作業しながら考え続 けるようになった。

私が現在も行っているのは、文字通り、作業である。即ち、刑務作業。懲役受刑者の義務として......誰にでも出来る本当に簡単な、作業。創意工夫の余地も無く、それ処か定められた手順を逸脱すれば(創意工夫なんかしようものなら)「指示違反」として懲罰にさえなりかねない、作業。頑張っても怠けても、平等の名の下に、受刑者達の処遇に殆ど影響を及ぼす事の無い、作業......

だから大多数の受刑者は実際に手を抜いているし、私も、真面目に作業するなど馬鹿らしいとさえ考 えていた。あの日、迄は......

服役直後から私は、自分で自分を終わらせる気でいた。それしか罪を償う方法は無いと考え......嘘だ。本当は、ただ逃げ出したかっただけだ。全てを失ったという事から。罪を償い続けなければならないと いう事から......

しかし、凡そ七年前の、私が服役してから丁度一年後。元妻が、面会に来てくれた。まだ幼かった一 人息子を抱いた彼女は、アクリル板越しに、私に、こう、言ってくれた。

「例え私と貴方が離婚して、赤の他人に戻ったとしても......この子と貴方の血の繋がりまで、無かった事には出来ません。この子が大きくなった刻。私は、貴方の事を、この子に話します。その刻、この子 はきっと激しく怒り、そして、酷く悲しむ筈 はずです。貴方の事を、決して赦さないかもしれません。でも、 いつか、実の父親である貴方に、逢いたいと考えるかもしれません。その刻、貴方が自暴自棄になって 更に罪を重ねる様な生き方をしていたり、或いは、全てから逃げ出していたならば......この子は、どう思うでしょうか? その事をどうか忘れないで、この子の為にも、どうか生きて、罪を償い続けて下さい。子供は、親の背中を見て、育つのだから」と......

その日から、私は、変わった。生きて、本気で罪を償い続けていく事を、更生し続けていく事を、元妻に、一人息子に、誓った。

しかし、どうすれば罪を償う事が出来るのか、更生する事が出来るのか......皆目見当もつかなかった 私は、兎に角、毎日を真摯に、精一杯、生きる事にした。手始めは、刑務作業。こいつにも、本気で、取り組んでみた。

すると不思議なもので、退屈で苦痛であった刑務作業にさえ、遣り甲斐が生まれた。それに伴い、立役(作業を監督・指導する受刑者)や刑務官からも、劇的にでは無いにせよ、少しずつだが、確実に評価もされ始めた。そして、先輩から貰った言葉の意味が、今更ながら、朧気ではあるが、解ってきた気もする。

つまり、作業とは、受動的。人にやらされている事であり、仕事とは、能動的。自分から進んで行う 事である、と考える様になった。

確かに、私が行っている事は刑務作業であり、実社会で仕事をしている人達からすれば、笑止千万なの だろうけれど......それでも私は、この刑務作業を仕事として捉え、励んでいる。その仕事を通じて、私には叶えたい夢があるのだから。

私の夢は、この刑務仕事を通して更生に努め、一日も早い社会復帰を果たし、社会で仕事に就き、働き ながら、生きて、更生に努め続けていく事である。もう二度と違う事は無いのかもしれないけれど、もしも、いつか、再会が叶うのならば......

一人息子の、眼を、真っ直ぐ見る事が出来る様に。

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